地域・社会貢献活動

10周年記念作品集に寄せて

  • 持続可能なアートをめざして
  • 造形作家  清水 啓一

10周年記念

1990年以降、全国各地で芽生えはじめた障がいのある人のアート。「個性的で面白い」「感性が豊かだ」とありがちな評価で終始する時代は遠い昔のこと。生みだされた表現に対して責任を負わなくてはいけない、と僕は考えています。

今、思えば僕がこうした芸術活動に携わらせていただいて25年以上になります。当時は若造で、施設のなかで生産的なモノづくりから創作活動の支援にシフトし、彼らの「表現の世界観を共有し共生することで、より人間味溢れる社会にする」と強く想いながら、現実には、なかなか伴わず、格闘してきました。

一方的に絵を描くだけの作業で終らすのではなく、個人の可能性は何なのか?キーポイントを検証し発見する。そして、潜在的な個性が覚醒したとき、芸術表現を継続させるための環境を整えるのが現場での仕事である、と考えています。また、既成芸術の世界に多様な表現や多様な部門があるように、彼らの特異な個性もひとつの芸術表現である、ひとつの芸術の分野であるとして社会全体に認識され定着することを目的として、さまざまな展覧会やアートプロジェクト、またデザイン化や商品化などを行なう仕組みの形成に関わってきました。

少し大げさかもしれませんが、芸術表現の支援を仕事にすることは、殉教者に近いのかも知れません。障がいのある人たちの精神的成長を見守り、生きる糧の創出を使命とすることを誇りとする。彼らの自由な環境を守り、それを維持発展させ、社会の中でどのように位置付けるかは、終わりのない活動であり、また時代時代により、障がいのある人のアートに関わる一人ひとりが背負う課題でもあるのです。

この10年間、入賞者や入選者の中で現在もアート活動を続けている人たち。何かの事情で続けることのできなくなった人たち。彼らの人生の中で「かんでんコラボ・アート21」がもたらしてきたものとは?「生きていく活力」「人生の糧」であることに間違いないでしょう。

この記念作品集が、障がいのある人たちの芸術表現を持続可能なものとするひとつの‘道標’となることを望んで止みません。