地域・社会貢献活動

10周年記念作品集に寄せて

  • アートが拓く可能性
  • 現代美術家、NPO法人アーツプロジェクト代表  森口 ゆたか

10周年記念

自分自身が50歳の峠を越えると、近頃これまでとは違う風景が見えてきた。視力の良さだけは自慢だった目が、今や日に日に老眼が進み、老眼鏡の助けなしでは自分が書いている字すら見えない。食事中も食べ物がボヤッと薄靄がかかったように見えながら食べるので、美味しさも半減する。人は味覚だけで食べ物を味わっているのではなく、視覚からも美味しさを感じているのだと身をもって知った。高齢化社会に生きる私達にとって、障がいと共に生きることは、何も「障がい者」と言われる人たちだけに当てはまることではなく、今や日本国民の殆どが、何らかの障がいと共に生きているのではないだろうか?

また一見障がいとは無縁に見える若くて健康そうな人々の中にも、心の病を抱え苦しんでいる人達は大勢いて、生きるということ自体が、何らかの障がいと共に生きるということではないかと思う。
 これまで「かんでんコラボ・アート21」の審査員として数多くの作品に触れる中で常に感じていたのは、障がいのあることが作品を生み出す上での障害になるどころか、むしろアートにとっての肥やしとなり、より豊かな作品世界が広がることだ。「障がいがあっても、こんなに素晴らしい作品ができるのです。」ではなくて、「障がいがあるからこそ、もっとすごい作品ができるのです。」である。

だから歳をとって目が見えなくなった、足が悪くなったと言って人生を悲観する必要は全くない。そうなったからこそ見えてくる新しい風景を楽しめば良い、表現すれば良いと、これまで「かんでんコラボ・アート21」に出品してくださった方々全員の作品が、そのように私に教えてくれる。人間の無限の可能性とアートの奥深さを改めて感じることができた。これまで応募してくださった多くの方々に心よりお礼申し上げたい。