地域・社会貢献活動

10周年記念作品集に寄せて

  • アートは透明なエネルギー
  • 財団法人たんぽぽの家 理事長  播磨 靖夫

10周年記念

「かんでんコラボ・アート21」は、「命の微笑を力に変えたい」という思いからはじまった「障がい者アート」の公募展です。毎年寄せられる数多くの作品は、情熱や欲望や理念と呼ばれるさらに手前にある、無垢で清すがしい生まれたてのエネルギーに満ちあふれています。この10年「コラボ・アート21」と関われたことを感謝するとともに、アートと社会の関係について学んできたことが今日の成果につながっている、と思います。

私たちは1995年から「ABLE ART MOVEMENT(可能性の芸術運動)」を提唱し、それまで低く見られてきた 「障がい者アート」を見直す運動を展開してきました。「アートで社会を元気にしよう」という関西電力の賛同を得て「ABLE ART」展(1996年)を開催し、「芸術宣言」を出版することができました。これが世界へ発信するきっかけとなり、日本発の新しい芸術運動が注目されるようになりました。

個人の尊厳を重んじ、普遍的かつ個性豊かな文化の創造をめざす私たちは、「障がい者アート」のレベルアップをはかるため「土を耕し、種をまき、苗を育て、花を咲かせる」仕事を地道にやってきました。それが実って今日同じような公募展が現れ、展覧会もひんぱんに開かれるようになっています。

ここで特筆しておきたいのは、今年3月、大阪高島屋の「ギャラリーNEXT」で、「コラボ・アート21」の入選者が作家デビューをしたことです。また、数多の入選者のアートがデザイン化され、人気商品として流通しています。アートを「仕事」にする、という目論見も着実に進んでいます。

そもそも芸術は、生きることが幸福でありたい、という感情にもとづく人間の本質的な営みです。たしかに障がいのある人たちは、社会的に弱い立場にあるかもしれませんが、幸福でありたい、と願う表現においては決して「アウトサイダー」ではありません。それどころかその表現は、私たちに生きる意味を考えるきっかけをつくってくれています。

『他者の苦痛へのまなざし』という本を書いた米国の作家、スーザン・ソンタグは「どこ生まれであろうと真剣な文化は、人間の尊厳の一表現である」といっています。アートを通して個人の尊厳を尊び、その表現に敬意を払い、生きることの喜びを分かち合う。これが、これからの世界のあり方、ということを示してきた「コラボ・アート21」の社会的意味は大きいと思います。

筆者は、平成21年度 芸術選奨 文部科学大臣賞「芸術振興部門」を受賞。