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※1: |
ショットピーニング工事 金属表面に金属の玉を高速度でたたきつけることにより、金属表面の引張残留応力を圧縮応力に変化させる工事。
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※2: |
渦流探傷試験(ECT) 材料表面に渦電流を流して、材料に発生する電磁誘導の変化から検査対象の傷を検出する方法。
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※3: |
浸透探傷試験(PT) 試験体表面に開口している傷を目で見やすくするため、可視染料の入った高浸透性の液を浸透させた後、余分な浸透液を除去し、現像剤により浸透指示模様として観察する方法。
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※4: |
超音波探傷試験(UT) 構造物に入射した超音波が欠陥に当たって跳ね返ってくる反響を観察することにより、欠陥の形態、形状、寸法を調べる方法。
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※5: |
エッチング 損傷部の表面を磨いた後、しゅう酸水溶液等により表面を腐食させ、溶接部や母材部などの金属組織の違いを出現させて光学顕微鏡で観察する方法。
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※6: |
スンプ 損傷部の表面を磨いた後、表面にフィルム等を貼り付け写し取り、これを顕微鏡で観察。損傷部の金属サンプルを切り出すのと同様な調査が可能。
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※7: |
デンドライト境界 溶接部では、溶融した金属が固まる際にできる柱状の結晶(デンドライト結晶)ができ、その結晶組織の境界のことをデンドライト境界という。
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※8: |
1次冷却材中の環境下における応力腐食割れ
1次冷却水中の環境下で600系ニッケル基合金に発生するPWRプラント特有の応力腐食割れ。
(材料、環境および発生応力の3要素が重なって発生する割れ)
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(1) |
実機切断調査 |
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(溶接部) |
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割れは、軸方向の複数の割れから構成されており、最大深さ約11.5mmであり、デンドライト境界に沿って進展していました。 |
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・ |
割れ周辺は、スンプ観察の前に表面を磨く必要がありバフ施工※9を行ったため、表面は研磨が施されていた状態でしたが、それ以外の溶接部(一般部)に、機械加工※10跡である周方向の筋状の跡が等間隔に認められました。 |
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・ |
表面の残留応力を測定した結果、周方向に約280〜480 MPa、軸方向に約70〜350 MPaの引張残留応力を確認しました。 |
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溶接金属の化学分析を行い、製造時のミルシート(材料成績書)と相違がないことを確認しました。 |
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※9: |
バフ施工 溶接部表面等に対して、電動工具に取り付けた円形状のワイヤブラシ等(バフ)により、表面の研磨を行うこと。
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※10: |
機械加工 溶接により発生する表面の凸凹を切除するとともに、管台とセーフエンド部の段差を無くすため、金属製の刃を周方向に回転させ切削加工すること。
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(セーフエンド部) |
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割れは、主に2つの表層部の微小な割れからなり、オーステナイト結晶粒界※11に沿った破面が認められました。また、割れの最大深さは約0.9mmであり、当該部の板厚は電気事業法に基づく工事計画認可申請書に記載している板厚(75mm)を上回っていることを確認しました。 |
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割れ周辺は、スンプ観察の前に表面を磨く必要がありバフ施工を行ったため、表面は研磨が施されていた状態でしたが、それ以外のセーフエンド一般部の表面を型取観察した結果、機械加工跡である周方向の筋状の跡がほぼ等間隔に認められました。 |
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・ |
表面の残留応力を測定した結果、周方向に約570MPa、軸方向に約350MPaの引張残留応力を確認しました。 |
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短管金属の化学分析を行い、製造時のミルシート(材料成績書)と相違がないことを確認しました。 |
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※11: |
オーステナイト結晶粒界
ステンレス鋼に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼が持つハチの巣のような形をした結晶粒同士の境をいう。
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(2) |
製造履歴調査 |
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当該SGは、平成3年10月〜平成6年2月の間に工場で製作した際、SG管台部とセーフエンド部の溶接作業が行われていました。その際、機械加工を実施していました。
また、当該管台と今回の検査で傷が認められなかったB−SG管台との製作手順を確認しましたが相違は認められず、溶接の手直しについてもなかったと考えられました。
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(3) |
機械加工再現試験 |
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機械加工による影響を確認するため、聞き取り結果を踏まえた加工条件で実物大の供試体に機械加工を実施し、表面状態の観察をしたところ、実機で観察されたものと同様な周方向の筋状の跡がほぼ等間隔で確認されました。
また、残留応力を測定したところ、当該部と同様に、周方向に大きな引張残留応力を確認しました。
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(4) |
文献調査 |
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(溶接部) |
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文献調査を行った結果、600系ニッケル基合金溶接部については、加圧水型軽水炉(PWR)の1次冷却材環境下で300MPa以上の応力が残留していた場合、1次冷却材中の環境下における応力腐食割れが発生する可能性があることを確認しました。
また、応力腐食割れは、溶接部のデンドライト境界に沿った割れが進展することを確認しました。
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(セーフエンド部) |
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セーフエンド部で使用しているステンレス鋼については、PWRの1次冷却材環境下で応力腐食割れが発生した事例を確認することはできませんでした。
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(5) |
調査結果のまとめ |
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(溶接部) |
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過去の応力腐食割れ事象と同じデンドライト境界に沿った割れを確認しました。 |
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溶接部の表面において、1次冷却材環境下で応力腐食割れが発生する可能性のある応力を超える引張残留応力を確認しました。 |
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(セーフエンド部) |
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溶接部近傍において、オーステナイト結晶粒界に沿った微小な割れを確認しました。 |
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セーフエンド部の表面に、機械加工の影響と考えられる高い引張応力が残留していることを確認しました。 |
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2.推定原因 |
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600系ニッケル基合金部の割れについては、取替用SGの製作時の溶接および機械加工を行ったところ、金属表層部に高い引張残留応力が発生したことにより、1次冷却材中の環境下における応力腐食割れが発生し、運転中の応力等によりデンドライト境界に沿った割れが進展したものと推定しました。
またセーフエンド部は、割れの様相から、内面のごく表層部に高い引張残留応力が発生し、溶接部近傍において運転中の応力等により、オーステナイト結晶粒界に沿った割れが進展したものと推定しました。
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3.対策 |
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切出した当該部については、セーフエンド部は新品に取替え、より耐食性に優れた690系ニッケル基合金で溶接を行います。 |
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セーフエンド部については、バフ施工を行い引張残留応力の低減を図ります。
また、690系ニッケル基合金溶接部についても念のためバフ施工を行います。
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なお、セーフエンド部の割れの発生に関する研究を行い、知見の拡充を図っていきます。
対策工事には、数ヶ月を要する見込みであり、原子炉起動は今年の夏頃となる見込みです。
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