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水月湖の年縞(ねんこう)(若狭町)
湖底に眠る堆積物から地球の気候変動を探る

 三方五湖の一つ、水月(すいげつ)湖の湖底から採取した「年縞(ねんこう)」(縞(しま)模様のある堆積物)−その中には、地球の気候変動を記した貴重な情報が含まれています。
 水月湖は最大水深が34mと深く、直接流れ込む大きな河川がないため、湖底の水や泥は水流でかき乱されることがなく、無酸素状態であるために生物も棲(す)めません。湖の底に降り積もった堆積物は、静かにそのままの状態で永い年月を経てきています。
 湖底には、春から夏にかけてはケイソウなどが繁殖してできた白い層、秋から冬には粘土鉱物が堆積した黒い層が、1年に1枚の薄い層となって、木の年輪のように積み重なっています。これが年縞と呼ばれるもので、その中にはケイソウのほか、花粉や種子、葉、火山灰、黄砂なども含まれています。
 ケイソウは水域の環境によって生息する種類が異なり、死後もケイ酸質の殻を残します。花粉も植物ごとに形がから違い、堅い膜で覆われているため、湖底では何万年も腐らずに残ります。
 年縞を1枚ずつ数えて、そこに含まれているものを分析することで、周辺の植生、森林の変遷、気温・水温、海面の高さの変動、洪水や地震の発生までも知ることができます。
 多くの地理的好条件に恵まれた水月湖の場合、約15万年間にわたって、ほぼ年単位の細かな年代測定が可能です。これは、今までに世界各地で発見された年縞の最長記録だそうです。

 これまでの研究から、1万5000年前に急激な温暖化が始まり、周辺からツガなど氷期の樹木が激減、続く約500年間の空白(森の少ない荒野の状態)の後に、ブナやナラなど温帯の落葉広葉樹にスギの混じった森が広がったことが分かりました。
 そこに縄文文化が出現します。落葉広葉樹の拡大に伴い、クリやドングリなどの木の実が人々の主食となり、それを集め、調理し、貯蔵する容器として土器を作り始めたと考えられます。
 若狭町では、1980年に三方湖でボーリングによる最初の学術調査を実施。1991年には、水月湖の湖底から78mの連続した堆積物を採取し、そのときから「年縞」という訳語が用いられるようになりました。
 2006年夏にも水月湖で、英国ニューカッスル大学の中川毅助教授をはじめ各国の研究者が参加して学術調査が行われ、最長71m余りの年縞を採取。現在、分析作業中です。そこには約1万年くらい前に起きた韓国ウルルン島の噴火による火山灰や、大地震の痕跡なども確認されています。
 こうした「環境考古学」と呼ばれる新しい学問分野で、自然環境の変化と人類の歴史とのかかわりを探る研究が進められています。その世界有数の研究拠点である水月湖の年縞は、地球温暖化の危機が迫る現在、過去から未来を予測する手がかりを提供するものとして期待が寄せられています。

梅丈岳(400m)の山頂から見た水月湖と三方湖
▲梅丈岳(400m)の山頂から見た水月湖と三方湖。
ともに湖底から年縞が発見されています。

2006年に水月湖から採取した湖底土の断面
▲2006年に水月湖から採取した湖底土の断面。この写真は今から約1万年くらい前の堆積物で、薄い縞模様が年縞です。層の上側(湖面側)ほど年代が新しく、その1枚の厚さ(1年分の堆積物)は、暖かい年で約1〜1.5mm、寒い年で約0.7mm。1は大地震により一気に土砂が堆積、2は韓国ウルルン島の噴火による火山灰。[写真提供:若狭町企画環境課]

2006年夏に水月湖の中央部で行われたボーリング調査
▲2006年夏に水月湖の中央部で行われたボーリング調査。直径約8cmのパイプを地下約70mまで打ち込んで、湖底土を採取しました。[写真提供:若狭町企画環境課]


地図:水月湖(若狭町)
【参考文献】 『環境考古学事始』(平成19年発行)など国際日本文化研究センター安田喜憲教授の著書、
平成18年度の若狭町縄文学講座等での英国ニューカッスル大学地理学教室中川毅助教授の講演資料
【取材協力】 若狭三方縄文博物館の田辺常博副館長、青池晴彦学芸員からご教示をいただきました。


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