
関西電力の原子力発電所が立地する福井県嶺南地域。その一角にあるおおい町で製造した水素が大阪・関西万博で運航する水素燃料電池船の燃料の一部に使われる。現地に向かうと若狭湾を眼下に望む“うみんぴあ大飯”の敷地内に水素製造装置が見えてきた。
おおい町では、水を電気分解して水素をつくる。「水素製造に必要な電気は、関西電力の原子力発電所でつくった電気を使うので原子力由来の水素といえる」と原子力事業本部原子力企画グループの辻井秀也は説明する。発電から製造・利用までを記録するトラッキングによって電源と利用経路を特定できるのだとか。
関西電力は2023年から福井県・おおい町・ふくい水素エネルギー協議会と、水素製造・供給実証事業を進めてきた。「福井県は原子力の先進地であり、ゼロカーボンを牽引する地域。脱炭素電源である原子力から水素をつくることがゼロカーボンの鍵になる。嶺南地域では水素サプライチェーン構築をめざしており、今回の取り組みは大きな一歩」と話すのは、福井県嶺南Eコースト計画室の坂本裕基さん。おおい町でつくった水素はボンベに充填し、関西電力南港発電所に設置した燃料充填施設まで運び、水素燃料電池船に供給。船は会期中、中之島と万博会場を結ぶ旅客船として運行する。
万博期間中にもう1つ、嶺南産の原子力由来水素を発電燃料に利用する実証を行う。水素を燃やしてもCO2は排出されず、燃焼速度が速く燃焼温度も高い。関西電力は姫路第二発電所での水素混焼発電用燃料の一部に嶺南産の水素を利用し、発電した電気を万博に届ける電源構成の1つとして活用する。LNGと水素を混ぜて燃焼させることでCO2排出削減を図る試みだ。
「嶺南産水素を燃料の一部にした船が走り、嶺南産水素が万博会場に電気を灯す、すごくワクワクしませんか!?」坂本さんは声を弾ませる。福井県は、おおい町とともに県内の水素需要を喚起する事業の検討を進めており、おおい町では観光客向けの水素自動車レンタルサービスの可能性調査にも着手している。
「水素利活用プロジェクトでは福井県をはじめ多くの関係者と密に連携し、設置や運営、活用方法の検討を進めてきた。原子力を水素製造に活用することでゼロカーボンエネルギーのさらなる可能性にチャレンジしたい」と辻井。嶺南地域と関西電力がタッグを組んで、原子力が生み出す水素の力を日本と世界の人々にアピールする舞台が幕を開ける。
また大阪・関西万博では、次世代の空の移動手段として注目を集める空飛ぶクルマが初お目見え。電気を動力源とするためCO2の排出が少なく環境にやさしいことが特徴だ。垂直に離着陸でき、都市部はもちろん離島や山間部でも活躍する次世代の航空モビリティとして期待されている。
関西電力は機体の製造を手掛けるSkyDriveと共同で充電設備を開発、万博会場内の離着陸場(ポート)で空飛ぶクルマに充電する。「プロジェクト発足時からアイデアを出して設計に関わってきた充電設備がいよいよ稼働する」と声を弾ませるのは、事業開発・技術開発を担当する古田将空。関西電力がEVや蓄電池等の分野で培った知見を生かし、超急速充電の実現に汗をかいてきた。「効率的で収益性の高いポート運営を行うには、充電時間の短縮が不可欠。空飛ぶクルマはEVと比べて高電圧・大電流による、より急速な充電が必要。高出力になるほどバッテリーの温度も上昇するため、いかに温度上昇を抑えながら急速で充電するかが課題だった」
2023年、古田は空飛ぶクルマ用の充電設備と併せて安全性を担保するバッテリー冷却装置の検討を始め、それぞれの接続試験を完了することができた。SkyDriveの機体は、1回の充電で航続距離約15km、最大巡航速度100km/hで航行できる見通しだという。「試行錯誤の末、充電設備と機体が繫がったとき、技術者としての醍醐味を味わった」と古田は笑みを浮かべた。