対談【秋山咲恵×山口 周】日本の人材力と社会システム、再検証
対談
2022.4.28

対談【秋山咲恵×山口 周】日本の人材力と社会システム、再検証

秋山咲恵×山口 周

日本経済の成熟化のなかで、日本の人材競争力の低下が指摘されている。デジタル化と技術革新に伴う産業構造の変化とも相俟って活躍する人材像が変わるなか、「日本の人材力と社会システム」について考えた──

起業して痛感、
日本と世界の革新技術への姿勢やリーダーシップの違い


提供:サキコーポレーション

秋山 今日のテーマは「日本の人材力と社会システム、再検証」。山口さんには、どんな質問を投げても答えていただけそうですが(笑)、独自性を出せるよう、最初に呼び水的に私の経験に基づく現状認識から話します。私は1994年に起業した実務家です。私たちの会社では、エレクトロニクス製品の心臓部である、電子回路基板の生産ラインで使ってもらう検査ロボットを製造していました。最初のお客さまはソニーのウォークマンの工場。当時ウォークマンは世界最小最軽量の携帯音楽プレイヤーで、それ自体が画期的なものづくりチャレンジでした。基板検査を自動化したいというニーズに日本の名立たる大企業たちが応じようとしたが、どれもフィットせず、業界の常識と違う手法を採用した、スタートアップ企業である私たちの提案をソニーが買ってくれました。
その後、グローバル化の波に乗って世界に出て、日本と世界の違いを痛感しました。1つはイノベーションに対する姿勢。海外のお客さまは、全く新しい技術でも腹落ちしたら受け入れる姿勢があるが、日本のお客さまは横並び意識が強く、実績がない新技術はなかなか受け入れられない。
もう1つ、リーダーシップも随分違っていました。いち早く世界進出して、成功しているアジアや欧米企業の共通点は、ものすごくトップダウン。かなり職位の高い人が現場を熟知されていて、素早く大胆な決断をする。対照的なのが日本企業。優秀な現場が起案した稟議をいくつもの役職を経て、上げていくボトムアップ。でも、現場から遠くなるほど現場のリアルな感覚が薄れていき、大胆な提案に決裁を下せない。当時、日本の将来が心配になりました。

抑えきれない動物的衝動が経済を前進させ、
1位になったときリーダーの器が問われる

秋山 現在も心配していた状況が続いている気がしますが、いかがでしょう。

山口 当時、ソニーが実績のない秋山さんの会社と取引してくれたのは、本気で画期的な製品を完成させたかったからだと思います。だから望むピースを必死で探す。それはケインズが指摘した「衝動」。彼は、経済を前に進めるのは、抑えきれない人間本来の衝動、アニマルスピリットだと。ソニーを駆り立てたのは、つくりたいというアーティストの情熱。言い換えれば、アーティストって、凄くわがまま。ヘルマン・ヘッセが『わがままこそ最高の美徳』と礼讃したように、歴史上のリーダーたちは、当時の常識に我慢ならないと反旗を翻し、名を残した。日本は反旗を翻す人が減ったのかもしれません。
70年代までの日本にはトップグループに追いつき追い越せと全力で坂を駆け上がる人が大勢いたが、日経平均株価が3万9,000円台をつけ、時価総額世界ランキング20社中14社が日本企業になった89年を分水嶺として、社会や人材の質が大きく変質。リーダーシップに関して言うと、2番手、3番手にとって1位に追いつけというのはすごく楽。難しいのは、1位になったとき兜の緒を締め直し、次の目標を掲げられるかどうか。
マイケル・ジョーダンは引退会見で、「私の仕事は、自分のプレーを通じて、努力は必ず報われるという価値観を世の中に知らせることでした」と言いました。チームを優勝させるとか、ゴール記録を塗り替えるのではなく、毎日汗水流して働く人に必ず報われると伝えることだと。これは王者の目標の立て方。ナンバーワンになったとき、リーダーとしての器が問われる。次の大きな目標を掲げるリーダーが求められています。

ケインズ(John Maynard Keynes)1883-1946
イギリスの経済学者。主著『雇用、利子および貨幣の一般理論』で、「衝動」という言葉を使った。

ヘッセ(Hermann Hesse)1877-1962
ドイツの文学者。『わがままこそ最高の美徳』は、自ら我を通してきたヘッセ自身の生き様から、自分を信じて生きることの重要性を説いたエッセイ。

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