対談【秋山咲恵×山口 周】日本の人材力と社会システム、再検証
対談
2022.4.28

対談【秋山咲恵×山口 周】日本の人材力と社会システム、再検証

守るべきは会社でなく事業、
社会に必要な事業を営む限り大丈夫

山口 もう1つ、産業・企業も新陳代謝しないといけません。GAFAを生んだアメリカに対し、日本は社会自体に新陳代謝を促す力が弱まっている。

秋山 自分で起業した経験から、企業の新陳代謝を考えると、守るべきは会社でなく事業。社会に必要とされる事業を営んでいる限り、事業がなくなることはない。会社は事業の器でしかないのに、日本の社会制度は、事業でなく企業、器を守ることに力が入り過ぎています。

山口 会社と事業というのはすごく考えさせられる指摘です。スウェーデンにあったボルボとサーブという自動車会社は、10年ほど前に業績が厳しくなり、両社ともスウェーデン人の雇用を守るためにと政府に国有企業として買い取りを頼んだ。しかし政府は断った。理由は2つ。1つは、スウェーデンは製造業から情報産業へ構造転換を進めているので、自動車会社の救済はあり得ない。2つ目が、スウェーデンには、リカレント教育を行い再就職させる手厚い個人救済システムがあるので、会社は救わずに、個人を再教育して情報産業にシフトさせることができるから。会社は要らないと言われ、ボルボは中国の企業が買い取った。産業構造転換への政府の一貫した姿勢と国民の度量、そこは日本では難しいでしょう。

エネルギー事業者は革新と継承を共存させ、
インフラの重要性への意識喚起を

秋山 エネルギー事業についてはどうですか。社会を支える電力の安定供給は明らかに今後も必要な事業です。とはいえ脱炭素やESG、SDGsという流れのなかで、事業を守るには何が大事なのか。電力の安定供給という社会的存在意義を分析すると、変えるものと守るもの、両方あると思います。世代交代を生かして変革する一方で、伝統の技術や社会的意義を組織のスピリットとして次世代に継承することも欠かせません。エネルギー事業者への提言を。

山口 今回のウクライナの件でも判明したのが、ライフラインはある種の冗長性を持ってないと危ないということ。原子力や火力などの大規模集中型電源に加え、小水力など分散型システムで電気の地産地消ができればいい。
電力会社に望みたいのが、インフラの重要性への意識喚起。スイッチを押すと灯りが点く、お湯が出るのは、誰かがきちんと仕事をしているから。あたりまえのことをあたりまえにやることが、いかに創造的で挑戦的か。これは諸外国と大きく異なり、いわば社会的な「徳」ですが、その凄さに誰も気づかないのでは、人材も惹きつけられません。

秋山 そうですね。コロナになって、自粛したとき、エッセンシャルワーカーたちの仕事が改めて認識されましたが、電気も同じ。社会インフラに関わる仕事をしている人たちの、仕事の価値や尊さを想像できるのは、まさに人間の想像力だし、寛容性にも繋がります。想像力の欠如や劣化は社会にとっての大問題ですからね。
今日はありがとうございました。本当に楽しかったです。

関西電力の経営理念

関西電力の経営理念
秋山咲恵
秋山咲恵 あきやま さきえ
サキコーポレーション ファウンダー
1962年大阪府生まれ、奈良県出身。京都大学法学部卒。アクセンチュアを経て、94年技術系ベンチャー サキコーポレーション創業、代表取締役社長。電子機器のプリント基板検査装置で世界的シェアを獲得。2018年退任、ファウンダー。オリックスなどで社外取締役を務めるほか、国の審議会委員を歴任。著書『仕事力は習慣で鍛えなさい』など。
https://officesaki.com/
山口 周
山口 周 やまぐち しゅう
独立研究者・著作家・パブリックスピーカー
1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒、同大学院文学研究科美学美術史学専攻修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等で戦略策定、組織開発などに従事し、現在ライプニッツ代表。著書『ビジネスの未来』『ニュータイプの時代』『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』など。
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