現場取材|電力レジリエンス
かんでん Update
2023.8.31

現場取材|電力レジリエンス

水力発電設備の耐震補強工事を推進

関西電力

松岡賢樹・関西電力 再エネ事業本部 水力エンジニアリングセンター

松岡賢樹・関西電力 再エネ事業本部
水力エンジニアリングセンター

関西電力では、ダム等の水力発電設備の災害対策を進めている。地震災害に対して、関西電力の水力発電設備は電気事業法等の耐震基準を満たしているが、さらに将来発生する危険性がある南海トラフ地震などにも耐えられるよう、最新の知見を用いて安全性の確認と対策を進めている。

現在、1960年に竣工した長野県の木曽発電所小川水路橋(ダムから発電所へ水を送る水管橋梁)で耐震補強工事が行われており、現場を訪ねた。

「発電用に大量の水を使用する水力発電の特性を踏まえ、設備損壊による公衆災害を防ぐのが目的」と説明するのは、水力発電設備の評価・設計を担当する水力エンジニアリングセンターの松岡賢樹だ。

災害対策には、耐震補強と発電設備の損壊時に自動で取水を止めるシステム改良がある。小川水路橋では、耐震補強工事を行っており、橋脚の基礎部分や接続部の補強が主な工事内容だ。

耐震補強工事の施工管理を担うのは木曽水力センターに所属する入社3年目の田村篤志。「設計、施工、安全管理に関し検討内容が多く、基準の品質レベルに達するまで施工会社と協議して詰めていくのは大変だけれど、やりがいがある」

工事の進む小川水路橋

工事の進む小川水路橋

万全の安全管理と社内連携により 難易度の高い工事に対応

田村篤志・関西電力 木曽水力センター

田村篤志・関西電力 木曽水力センター

安全管理には細心の注意を払う。工事期間中も水路橋には毎秒60トンもの発電用の水が流れており、水路橋の変形や異常を察知する計器を用いながら慎重に作業を進める。また、橋脚工事は河川内で行うため、河川の増水時に作業員へ危険が及ばないよう、水量を常に注視している。

既設の水路橋を補強する難しさもある。工事の施工段階において当初条件と異なるケースもあり、「設計と施工が社内で連携して問題点を把握し、必要な耐震性能が得られるよう工事内容を都度リアルタイムに見直している」と松岡。現場に足を運び、現物を見て、実態を把握することを心がけている。

水力発電設備には100年以上の歴史が詰まった設備もあり、適切にメンテナンスをすれば半永久的に電気をつくることができる。「耐震補強工事を通じて土木技術の研鑽に努めながら、今後も安全最優先で工事を進め、エネルギーの安定供給に貢献したい」と田村。松岡は「土木技術者としての公正・誠実な価値観や倫理観を大切に、持てる技術を駆使し、壊れない設備、被害を軽減できる対策を確実に実行していく」と抱負を語った。

3社共同で災害対応の訓練を実施

関西電力送配電

関西電力茨木研修センターのグラウンドに集結した少しずつ趣の異なる電源車。「開始!」の声を受け、3社50人を超える配電部門の社員による訓練が始まった。

電気の安全・安定供給の使命を果たすため、関西電力送配電では災害復旧の技能維持・向上と復旧体制の強化に向けたさまざまな取り組みを実施。今年の6月1・2日の2日間、茨木研修センターで行われた関西電力送配電、中部電力パワーグリッド、北陸電力送配電の「中地域3社共同訓練」もその1つだ。

自然災害が激甚化するなか、災害時の停電復旧を迅速に行うため、2020年に一般送配電事業者10社が災害時連携計画を策定。この計画に基づいて4年に1度10社共同訓練を実施し、間の3年間は年に1度地域別の共同訓練を行っている。

今回、3社共同訓練の作業責任者として指揮を執ったのが、大阪北配電エンジニアリングセンターの日下部裕紀作業長だ。日下部は、2018年に関西を襲った台風21号の災害復旧に現場責任者として従事。19年には関東に大きな被害をもたらした台風15号の応援復旧にもあたった。

訓練を前に「参加する作業員の安全確保が私の役割。加えて、いざというときスムーズな連携が図れるよう、互いの復旧作業ノウハウを共有する機会にしたい」と話してくれた。

高圧線の仮復旧訓練

高圧線の仮復旧訓練

相互支援に向けてノウハウ共有

訓練には、関西30人、中部10人、北陸12人が参加。関西へ猛烈な勢力の台風が上陸し、関西全域で大規模停電が発生したという想定。1日目は高圧線の仮復旧訓練と電源車による応急送電訓練、2日目は各社保有の電源車の並列運転検証を実施した。

日下部裕紀・関西電力送配電 大阪北エンジニアリングセンター

日下部裕紀・関西電力送配電
大阪北エンジニアリングセンター

はじめに関西電力送配電が作業内容の説明を行う。災害時連携計画に基づき、仮復旧用の部材は一般送配電事業者10社で仕様を統一しているが、作業手順や工法は各社で異なり、活発な意見交換が行われていた。

概要説明を終えたのち、高圧線の仮復旧訓練に着手。小雨の降る中、各社スムーズに復旧を進め、初日を終えた。翌日の並列運転検証は、300~500kVAの電源車をつなぎ、工場など大量の電力を使用する施設の復旧を想定した訓練。「当社だけで応急送電する作業は、現場で何度も実践しているが、他の一般送配電事業者と共同で応急送電をする機会は滅多にない。いざという時に、現場で生かせるよう気を引き締めて臨みたい」と日下部。

「作業責任者として若手の育成にも力を入れていきたい」と意気込みを語る。若手と共に自然災害に立ち向かうため技能・技術研鑽の日々は続く。

訓練後も活発な意見交換が行われた

訓練後も活発な意見交換が行われた

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