エネルギーをめぐる状況は、太陽光発電コストの低下やデジタル技術の進展などにより、転換期を迎えている。第6次エネルギー基本計画やGX実現に向けた基本方針でも再エネ拡大が明記され、分散型電力システムの重要性が高まるなか、「分散型電源」について考えた──
柴山 私は電力の専門家ではなく、大学で経済学を教え、日本や世界の経済状況を長期的に分析しています。その観点で見ると、食料やエネルギーが経済の根幹にあることは歴史を通じても明らかで、現代は電力供給が保障されていないと産業発展もない。しかし、今は世界的にその基盤が揺らいでいます。本日のテーマは「分散型電源」ですが、20世紀以降の電力は大規模集中型でした。近年、小規模分散型が注目される背景には何がありますか。
小笠原 温暖化対策の側面が強いですね。加えて東日本大震災後の福島第一原子力発電所事故の影響もあり、石炭火力や原子力などの大規模集中型電源に反対する人が増えてしまった。先進諸国では石炭火力の閉鎖が相次ぎ、電源構成も、投資しやすい分散型が増えています。
柴山 従来は大型の発電所を電力会社が運営していましたが、分散型だとどうなるのでしょう?
小笠原 現状は、自家発電や再生可能エネルギー発電、蓄電池など分散型電源をアグリゲーター(特定卸供給事業者)が集約して、電力取引に参加する事例が出てきている状況です。
柴山 分散型電源を含む電力システムの理想形として、私のイメージでは、大規模集中型と分散型をうまくつなぎ、時々の価格状況に応じて自動で売買できる形が理想かなと思いますが、なかなかそうはならないものですか?
小笠原 確かに需要に応じて価格シグナルが出て売買できる形が望ましいです。しかし、刻々と変わる電力需要に対し、膨大な数の小規模分散型電源で出力調整を行うことや、本当にそれができているかの検証は難しい。発電指示を送る通信機器と出力値の計量技術に課題が残っており、リアルタイムで収益を上げる取引も実現していないのが現状です。
柴山 課題は多いが、分散型への流れは変わらないんでしょうね。これまでは電力会社が責任を持って安価な電気を安定供給していましたが、この10年余り、電力自由化を含む変化のなかで、供給不安が起きています。
小笠原 電力自由化で競争を促した結果、発電コストが高くCO2排出量の多い火力は撤退が増え、再エネが台頭。この状況下で悪天候に見舞われたりすると、エネルギー危機が発生するリスクがあります。
実際、需給逼迫構造は再エネの増加で変わりました。以前は夏に逼迫していましたが、今は冬。なぜなら冬は寒波で需要が増える一方、降雪や曇天などで太陽光が発電できず供給が不足するからです。夏はむしろ太陽光が頑張ってくれるので、需給逼迫リスクは減ってきました。冬も安定供給を維持するには蓄電池の活用などが必要で、使えば使うほど劣化する現状のリチウムイオン電池に替わり、劣化の少ない全固体電池の開発が進んでいます。
柴山 グローバル化のなかで、高付加価値を生む企業拠点を自国に誘致する競争がある。そのとき最先端施設では、高品質の電気が安く安定的に供給されることが投資の大きな判断材料になります。分散型電源が増えても、安定供給の維持が求められます。