
高浜発電所 副所長 片山誠弥
発電所での具体的な取組みを聞くため、高浜発電所を訪ねた。迎えてくれたのは、安全性向上対策工事の陣頭指揮を執った高浜発電所副所長(土木建築)の片山誠弥だ。高浜発電所では、原子炉格納容器上部遮蔽設置、海水取水設備移設、竜巻防護設備設置工事など、さまざまな工事に取り組んできた。
「安全性向上対策工事は、難易度の高いものばかり。当社の土木建築部門から専門知識を持つ技術者を集結させ取り組んだ」
なかでも困難を極めたのが、原子力発電所では世界初となる原子炉格納容器上部遮蔽、いわゆるトップドーム設置工事だ。万が一の重大事故に備え、円筒状の外部遮蔽壁上部をドーム形状の鉄筋コンクリートで覆うもの。ドーム設置に伴う重量増に対応するため、円筒部分の補強を実施した。出来上がっている構造物の上にドームをつくるという前例のない難工事に挑み、2020年5月に1号機、21年3月に2号機の設置工事を完了させた。
トップドーム設置工事
「土木建築工事は日々変化する現場の状況と課題を踏まえながら、安全対策、品質確保、工程管理を行っていく必要があり、頭を悩ませることも多かった」と片山は振り返る。ドーム部分の構築では、地上で組んだ最大約7.7トンにもなる鉄骨の大梁をクレーンで高さ約90mの外部遮蔽壁頭頂部まで運び設置。他工事も同時進行しており作業エリアが限られるなか、片山は工事に必要なエリア確保や高所作業の安全対策に邁進。安全最優先で工事を進めた。
安全確保を最優先に取り組んだクレーン作業
「苦労も多かったが、構造物が完成に向かっていく姿を確認できたことは、現場で働くものの特権であり、醍醐味だ」
現在、高浜発電所では、1・2号機の再稼動に向け、特定重大事故等対処施設*設置工事が進んでいる。工事は、ほんの少しの油断が大きな事故につながりかねない。第一線の現場を預かる身として、片山が最も重要視しているのは、社員、協力会社の全員が、毎日元気に家族の元、友人の元、帰るべき場所に帰っていく――。これをあたりまえに繰り返すことだという。
「そのために自分ができることは、現場に足を運び、見えないリスクを肌で感じること」。片山によると、挨拶や互いの声掛け、整理整頓がおざなりになっていると危険サインだという。
「ルールを遵守し、安全最優先で『考動』する。1つ1つの『あたりまえ』の積み重ねが、地域や社会の信頼醸成につながる。強い責任感と高い技術力を持った『原子力土木建築工事のプロフェッショナル』育成に尽力していきたい」
*原子炉建屋への故意による大型航空機の衝突やその他のテロリズム等により、原子炉を冷却する機能が喪失し、炉心が著しく損傷した場合に備えて、格納容器の破損を防止するための機能を持つ施設
関西電力は9月22日、高浜3・4号機の40年以降運転に向けた特別点検を始めたと発表した。国は原子力発電所の運転期間を原則40年と定めており、延長には原子力規制委員会の認可が必要になる。特別点検は、40年以降運転を検討するにあたり、設備の劣化状況を把握するもの。高浜発電所では既に1・2号機で特別点検を実施、運転期間延長の認可を受け、23年の再稼動を予定している。
高浜発電所 原子炉保修課 原子炉班長 大江寛史
「予防保全の観点から蒸気発生器などの大型機器、配管などの取替えは計画的に実施している。但し、原子炉容器やこれを覆う原子炉格納容器、コンクリート構造物は取替えが難しいため、通常の保守管理に加え、特別点検を実施することで設備の健全性を確認している」。そう話すのは、約20年にわたり原子炉保修課に在籍し、原子炉容器や蒸気発生器といった大型機器からそれに付随する設備全般の保守管理に携わってきた原子炉保修課原子炉班長の大江寛史。
原子炉容器では、発電を止めて燃料を取り出した後、ロボットを用いた超音波や渦電流を使った非破壊検査や目視検査を実施し、容器本体のひびや割れなどの欠陥の有無を点検する。原子炉格納容器については、鋼板の腐食を防止する表面の塗装状況を念入りに目視し、塗装の剥がれや腐食などの欠陥や異常がないことを確認。コンクリート構造物は、直接サンプルを取り出して、性質の変化や強度、遮蔽能力に問題がないことを確認している。
原子炉容器内を点検するためのロボット
原子炉格納容器の表面を目視で念入りに確認
1・2号機の特別点検にも携わった大江は「メンバー一同どんな些細な異常でも必ず自分が見つけるという強い信念を持って取り組んだ」と振り返る。
原子炉格納容器の点検では、直径約40m、高さ約60mと広範囲にわたる塗装の健全性を確認するため、大規模な点検用足場を組んで目視を行う。足場が組み立てられないところはカメラを搭載した昇降装置を使用する。
大江は、現場の安全確認を行うとともに、協力会社と一緒に足場に上り目視確認を実施。「点検範囲が広いので複数人で行うが、既に誰かが見ていると思った時点で見落としが生まれる。点検員はそういった考えを持つことなく取り組まなければならない」と厳しく言い切る。とはいえ、点検ではライトの当て方ひとつにもコツがあり、若手社員に勘所を伝えながら点検を行った。
大江が特別点検に携わった1・2号機の再稼動が控えるなか、今後の抱負を聞いた。
「40年を超えたプラントで10年以上稼動していなかったので、設備点検を入念に行い再稼動に万全を期していく。当然私一人ではできないので、設備の特徴や異常の捉え方を若手社員に伝え、保修体制をさらに強化していく。技術継承こそ高経年化炉の安全・安定運転を支えるカギを握る」