藤沢 アメリカなどでは原子力の定期検査の間隔、つまり連続運転期間を延ばしていて、日本もそうすれば原子力の稼動率は上がり有用性が増します。
秋元 長期サイクル運転には不安の声もありますが、短い間隔で起動・停止を繰り返すほうがリスクは高いという見方もあります。
藤沢 安全性ということではデジタル化を推したいです。10年ほど前ですが、私が原子力発電所を見学したときは、入構時のパスポートによる本人確認に始まり、紙が多いなと感じました。もっとデジタルを活用すれば、より緻密な管理が可能になり、安全性は増すのではないでしょうか。
実は私の今の職場は、ゲートも食堂もコンビニも全部顔認証。とても便利で、かつ、セキュリティカードやパスワードの貸し借りもなく安全です。発電所の場合、どういう人がどこにいるかはすごく大事。デジタル技術を使えば、安全をかなり担保できそうです。また先頃、新型原子炉の研究者の話で興味深かったのが、原子力発電所のデジタルツイン。事前に事故の原因と対策などをデジタル上で多様にシミュレーションできるとか。
秋元 設計段階で多様な検証ができれば、コストもリスクも下げられます。
藤沢 もう1つ、原子力推進には立地地域との共生、消費地の理解も大事。実際、働いている人の安全意識は極めて高いと感じました。
秋元 原子力は立地地域があってこそ。脱炭素化を考えると、新増設・リプレースは不可欠で、地域との信頼関係なくしては進みません。
まずは頑張っている現場の人の姿を大勢に見てほしいですね。地域の発展に寄与している原子力の良い面もメディアは伝えるべきです。
藤沢 今はオンラインでつながるので、全国の子供や若者が対話会やバーチャル見学会に参加できればいいと思います。若い世代にもっと原子力を知ってほしいですね。
秋元 私の理解だと、若い世代のほうが原子力に対する理解度が高く、中庸で柔軟な発想を持っています。若い世代が意思決定に関与していくことも重要ですね。
藤沢 エネルギー事業者、関西電力への提言をお願いします。
秋元 資源小国日本において原子力が経済成長を支えてきました。国民は日々当たり前のように電気を使っていますが、電力会社は停電もほとんど起こさず精一杯安定供給を続けている。
震災後の逆風で、原子力の維持は難しくなっているが、長期的に原子力は日本の産業発展・国民の生活を支えるものです。原子力比率が高い関西電力には、S+3E、安全を大前提に、エネルギー安全保障・安定供給と経済性、脱炭素化に資する電源として原子力をコアに、多様なエネルギーミックス実現へ責務を果たしてほしいと切に願っています。
そして従来は電力の安定供給に主眼がありましたが、自由化のなかではデジタルと組み合わせて、新サービスの創出も期待したいです。電力という枠を超え、新しいエネルギー産業、さらにエネルギーを超えた新サービスの提供を追求していただきたい。
藤沢 電力会社には、もっと多様なコラボレーションを望みたいですね。ドイツでは電力会社が街なかにインキュベーション施設を設置、スタートアップの人たちにデスクを提供して、新事業創出につなげようとしています。電力会社は自分たちの挑戦を応援してくれるパートナーなんです。
思うに日本の経営層は、もっと自ら外に出て海外を見たほうがいい。1次情報を持つ外国人と直接コミュニケーションすべきだと思います。メディアを通じた情報だけではすでに古くなっていることも多く、現状認識を間違ってしまう。ホットな情報を発信するメディアを自前で持ってもいい。特に日本は科学技術系のジャーナリストが少ないので、公的な存在の電力会社が先導して技術系企業とともにジャーナリスト育成に乗り出してもいいのではないかと思います。
本日はありがとうございました。