対談 【藤沢久美×秋元圭吾】原子力発電の展望
対談
2022.12.21

対談 【藤沢久美×秋元圭吾】原子力発電の展望

藤沢久美×秋元圭吾

ウクライナ危機で顕在化したエネルギー安全保障問題。電力の需給逼迫回避と脱炭素化推進へ、国も原子力の今後の活用に向け、新増設や建て替えを含め、様々な検討を始めた。エネルギー自給率の低い日本で原子力の必要性が高まるなか、改めて「原子力発電」について考えた──

ウクライナ危機と電力需給逼迫で
改めて突きつけられた原子力の重要性

藤沢 ウクライナ危機を皮切りに、原子力を含めエネルギー選択をどうするか、私たち自身が真剣に考える必要があると痛感していますが、秋元さんはエネルギーをめぐる現状をどう捉えていますか。

秋元圭吾 地球環境産業技術研究機構(RITE)主席研究員の写真

秋元 世界的な脱炭素化の流れのなかで、再生可能エネルギーと原子力の重要性が増大。日本では2020年10月に当時の菅首相が脱炭素社会実現を打ち出すも、再エネはともかく、原子力は11年の東京電力福島第一原子力発電所事故を引きずり、後回しにされてきました。事故後、エネルギー基本計画を何度も議論しましたが、常に原子力はできるだけ削減する方向。ウクライナ危機で改めてエネルギー安全保障・安定供給、経済性を考えたとき、原子力の必要性が浮き彫りになりました。電力の需給逼迫も重なって、社会の認識が変化しており、国も原子力推進に動き始めたのが現状です。

藤沢 原子力は電力安定供給や脱炭素化に向けても重要な役割を果たすにもかかわらず、震災後はそれを議論する空気がなかった。今、空気は変わってきたと理解していいですか。

秋元 そう思います。21年10月のエネルギー基本計画も従来同様、原子力は削減方向の記述でしたが、その後、急速に状況が変化しました。欧米でも原子力に否定的だった国が、あっという間に手のひら返し。欧州は理念を打ち出すのが得意で、必要があればうまく理屈をつけて変えています。

諸外国の原子力回帰(日本と海外の動向に差が生じている)

先進国の原子力活用は
途上国のエネルギーアクセス改善にも資する

藤沢久美 国際社会経済研究所 理事長の写真

藤沢 ドイツなどまさにそうですね。コロナ禍で海外の変化を直接肌で察知する機会が減っていますが、皆さん自国の事情で、最適なエネルギーは何かを考え、政策を変えている。日本も右往左往せず、日本としてどういうエネルギー構成にすれば、将来的にも世界的にも優位なポジションを取れるかを、そろそろ冷静に考える必要があります。変化は悪いことではない。政策は国民の幸せのためにあるので、変わることも当然あり得ます。

秋元 私も22年夏、久しぶりに渡欧し、原子力政策について欧州の研究者と話し合意したのが、原子力の活用は自国のメリットだけではないということです。ウクライナ危機で化石燃料の価格が高騰するなか、先進国が原子力を使えば、化石燃料に余裕が出て価格が低下し、途上国のエネルギーアクセス改善にもつながります。日本だけでなく世界に貢献できるエネルギー政策を持つことを考えたいですね。

藤沢 今の視点はすごく大事。先進国だけで仲間づくりをする時代は終わり、途上国も一緒に仲間づくりをするにあたって、エネルギーをどう分け合うかは非常に大切ですね。

秋元 そうです。原子力を途上国で使うのはハードルが高い。日本で使うことが、間接的に海外にも良い影響を与えるわけです。

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