ゼロカーボン社会実現のため、重要な役割を担う水素。関西電力では、21年5月、水素事業に効率的かつ効果的に取り組むため、水素事業戦略室を新設した。ゼロカーボンエネルギーのリーディングカンパニーとして水素のあらゆる可能性を追求する関西電力の取組みとは──
荒木 誠 執行役常務
2021年10月、国が策定した第6次エネルギー基本計画に「カーボンニュートラルに必要不可欠な二次エネルギー」と明記された水素。これに先立つ21年2月に関西電力が発表した「ゼロカーボンビジョン2050」では、「水素社会への挑戦」を柱の1つに掲げ、水素のあらゆる可能性を追求することを宣言し、関連する事業化調査などの取組みが加速している。ゼロカーボン実現のカギとして注目される水素だが、「水素社会を実現するためには『つくる』×『ためる・はこぶ』×『つかう』というサプライチェーン全体を構築しつつ、技術開発やコスト低減を同時に進めないといけない」と、関西電力水素事業戦略室を所掌する荒木 誠執行役常務は現状を説明する。
水素は化石燃料や再生可能エネルギーなどの一次エネルギーからつくる二次エネルギー。製造方法は、化石燃料の水蒸気改質、水の電気分解、熱分解等がある。水素は炭素を含まないため燃焼時にCO2が発生しないが、水素を化石燃料からつくる場合は、製造時に発生するCO2をCCUS*等で処理しなければゼロカーボンにはならない。原子力や再エネの電気を使って水を電気分解すればCO2フリーだが、国内で製造するには、コストと量の確保に課題がある。当面、発電利用に伴う水素の大量調達は海外からの輸入が主となるが、輸送技術の確立・低コスト化などが必要。輸送には、液化やアンモニア等他の物質への変換など、いくつかの方法が考えられるが、液化には大規模な設備投資が必要。一方アンモニアは運びやすいが、そのまま燃料として使うには燃焼時に発生する窒素酸化物の処理が課題であり、水素をアンモニアから取り出して使うためには技術開発が必要。それぞれ一長一短だ。
「これらさまざまな課題を考慮しつつ、サプライチェーンを構築していく必要がある。水素社会への道のりは始まったばかり」
それでも水素に注目が集まるのは、CO2を排出しない利用時のメリットが大きいからだ。運輸・産業分野でも幅広く活用でき、水素発電が実用化されれば、火力発電のゼロカーボン化にも貢献できる。
*CO2を分離・回収し、資源として有効利用または貯留すること。
(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)
水素社会実現に向け、具体的な取組みも複数動き出している。海外での水素製造・調達では、再エネ資源の豊かなオーストラリアでグリーン水素*1を製造し、日本へ輸送する事業について、日豪両政府の支援のもと、複数の事業者とともに検討を進めている。
国内では、系統蓄電池や未利用の地熱エネルギーを活用した水素製造システムの構築に向けた調査・検討がスタート。利用面では、既設火力発電所のガスタービン発電設備を活用した水素発電の実証プロジェクトが始動している。30年からの大規模な水素混焼発電を目指し、姫路第一発電所と姫路第二発電所をターゲットに検討を進めているところだ。
「今後、再エネ電源が増えたときの系統安定性確保に欠かせないのが火力電源。ゼロカーボンの実現には火力電源のゼロカーボン化が必要であり、そのカギになり得るのが水素だ。言い換えれば当社は大きなニーズ、大規模な水素需要ポテンシャルを持っている。このポテンシャルを梃に、スケールメリットを生かしたサプライチェーン構築を牽引できるポジションにある。産官学のパートナーと幅広く連携して水素社会実現に主導的役割を果たしていきたい」
今年3月に関西電力が発表した「ゼロカーボンロードマップ」でも、サプライチェーン全般での取組みを進め、50年には取扱量で全国シェア3割を目指すと明記。実現に向けて課題は多いが、「だから逆に面白い」と荒木の表情は明るい。
「サプライチェーンのあらゆるところに可能性があり、新しい挑戦がある。受入拠点を姫路エリアとした水素サプライチェーン構築の検討を始めたが、他社と協業しながら、先行者(ファーストムーバー)*2となるべく果敢にチャレンジしていきたい」