松本 中期経営計画では、2023年度まではかなり経営収支が厳しく、その後改善する目標を掲げておられますが、やはり当面は厳しい状況ですか。
森 燃料価格高騰のなかで足元の収支は非常に厳しいです。グループの総力をあげて、利益水準を押し上げていく必要があります。
松本 25年度には財務状況を改善、成長軌道に乗るというこの目標達成には、やはり3本柱が大事でしょうが、まず脱炭素化にはどう取り組みますか。
森 S+3Eの観点を踏まえ、ゼロカーボン電源である再エネの拡大や原子力の安全・安定運転のほか、火力についても脱炭素化に向けた取組みを進めます。また、ゼロカーボン社会の実現に不可欠な水素社会の実現にも挑戦します。
松本 原子力は電力の安定供給と脱炭素化の実現に欠かせないエネルギーです。全国の電力会社の中では、関西電力が最も原子力の再稼動が進んでいます。私自身、かつて関西電力の原子力安全検証委員会の委員を務め、実際に発電所も視察しました。関西電力が他電力の見本になるほど原子力安全の実績を積まれていると認識しています。
森 ありがとうございます。確かに、昨今、燃料価格の高騰や脱炭素化の潮流を受け、原子力の必要性を指摘する声が高まってきています。また先日、日本のエネルギー安定供給の再構築に向けて、原子力発電所を最大限活用することや、次世代革新炉の開発・建設等について、国として検討する方向性も示されました。原子力の活用にあたって大前提となるのが安全の確保ですが、私たちは、地元の皆さまのご理解もいただきながら、規制基準に対応するだけでなく、さらなる安全性向上のために、たゆまぬ努力を重ねてきました。それが今の実績につながっていると思います。
松本 原子力に関する理解活動はどのように進めていますか。
森 特効薬があるわけではなく、1つずつ丁寧に疑問に答え、ご理解いただくことの積み重ねと考えています。その大前提は、日々の発電所の安全・安定運転。私たちは、立地地域はもちろんのこと、広く関西全体で原子力に関するご説明などを実施しています。
松本 もう1つのゼロカーボン電源が再生可能エネルギー。政府は、30年、再エネを36%~38%と主力電源化を目指していますが、関西電力の再エネ戦略は?
森 ゼロカーボン電源である、原子力と再エネの活用を両輪で進めていくことが重要だと考えています。
再エネは、洋上風力などの大規模開発が進む一方で、小規模分散化も進んでいます。これまでは、大規模電源から送電線を通って変電所、配電線と、上流から下流へ水が流れるように電気をお客さまにお届けしてきましたが、この系統電力中心の電気事業が、再エネの増加によって今後変わっていきます。分散型電源である再エネの普及・拡大により、お客さま自身が電気の使い手だけでなく創り手にもなる。当社も再エネと蓄電池を組み合わせたサービスなどを提案していきます。
松本 分散型グリッド構築も中期経営計画に入っていますね。
森 エネルギーだけでなく、社会全体が分散型になる。エネルギーの地産地消を支えるグリッドなども出てくるでしょう。
松本 火力発電は、脱炭素化で減らしていく方向ですか。
森 脱炭素化という流れのなかで石炭や石油等の利用は減っていきますが、火力発電を活用しなくなるわけではありません。火力発電は調整力等に大変優れており、自然条件によって出力が変動する再エネを補完し、系統を安定化する電源として不可欠です。CO2抑制のため、発電に必要な燃料に水素やアンモニアを活用したり、CO2を回収し、有効利用・貯留する技術(CCUS)を用いたりするなど、脱炭素化を図りながら今後も活用していきます。エネルギーセキュリティの確保の観点からも、多様な電源構成が重要です。
松本 3本柱の2つ目、サービス・プロバイダーへの転換とはどういうことですか。
森 従来は電気をつくってお届けすることが仕事でしたが、今後はエネルギーの供給にあたって、ゼロカーボン電源や分散型グリッドなどを活用して、新しい価値・サービスをあわせてお届けすることで、お客さまに喜んでいただき、事業領域を広げていきます。
また、エネルギー以外の分野でも、お客さまが真に求めるものをつくり、お届けしていきたいと考えています。既に不動産事業は60年以上、情報通信事業は30年以上の実績があり、それぞれZEHやZEB開発、データセンター事業などにも進出しています。近年は、新たにエビの陸上養殖や子育て支援など、従業員の斬新なアイデアに基づき、多様な新規事業にも挑戦しています。
加えて社外連携にもチャンスがあると考え、ベンチャーへの投資も積極的に推進。ベンチャー投資枠を総額110億円に拡大し、エネルギー関係のみならずさまざまな分野に投資を行い、将来につながる大きなビジネスへと育てていきたいと考えています。
松本 3つ目の強靱な企業体質への改革とは? また、これら中期経営計画の3本柱の取組みを進める上で、ポイントとなるのは何でしょうか。
森 デジタル化や働き方改革を加速するとともに、徹底したコスト構造改革を推し進めることで、経営基盤を強固なものにしていきます。また、これら3本柱の取組みを進める上で大前提となるのが、何でも気兼ねなく話し合うことができる開かれた企業風土です。私たちはこれまで、金品受取り問題等を受け、ガバナンス改革やコンプライアンスの徹底に取り組むとともに、風通しの良い健全な企業風土の醸成にも力を尽くしてきました。今後も引き続き、グループ全員が生き生きと働き、活躍できる企業風土を醸成、全員の持てる力を結集することで、持続的成長の道を力強く切り拓いていきたいと思います。