現場取材|安定供給を守る
かんでん Update
2021.12.27

現場取材|安定供給を守る

供給力確保へ、定検時期変更の決断

関西電力 大飯発電所 一井 昭彦

関西電力 大飯発電所 一井 昭彦

「13カ月に1度、発電所を止め、2~3カ月かけて設備の健全性を確認する定期検査(定検)は、電気を安全に安定してお届けするために必要不可欠な工程」

そう切り出したのは91年の入社以来30年、関西電力大飯発電所一筋に歩んできた一井昭彦。長く運転員を務めた後、現在は技術課定検係の係長として、定検の工程策定や進捗管理を担当している。

11年の東京電力福島第一原子力発電所事故を教訓に新たな規制基準が制定され、関西電力もさまざまな安全性向上対策を実施した結果、大飯3・4号機など計7基の運転が認められた。一方で大飯1・2号機など4基の廃炉が決定し、関西電力の原子力による供給力も約3割程度減少した。「ベース電源を担う原子力は、安全最優先を大前提に安定稼動させ、安定供給に寄与していかなければならない」

昨冬に続き厳しい需給状況が予想されるなか、今冬の供給力を確保するため、大飯3号機の次回定検開始時期を当初予定の21年12月から22年8月へ変更した。現場では工程変更など、多岐にわたる関係者との調整を行う。

「美浜や高浜の定検作業を兼務していただいている協力会社さんもあるので、工程が重ならないよう綿密に調整する必要がある。これまで以上に原子力事業本部や他の原子力発電所とも連携し、トータルな視点で計画を進めている」

関西電力 大飯発電所

関西電力 大飯発電所

コロナ禍のなかで

定検に向け綿密な調整を重ねる

定検に向け綿密な調整を重ねる

定検の延期について語る一井の表情に動揺の気配はない。というのも、前回定検で得た経験があるからだ。

大飯3号機の第18回定検は、20年5月開始予定だったが、新型コロナウイルスの影響で7月にずれ込んだうえ、加圧器スプレイ配管取替対応が必要となり、当初予定を8カ月も上回る1年がかりの長期定検となった。

「起動時期の目処が立たないなか、需給状況や美浜、高浜の定検時期もにらみながら、どういった工程で進めれば安全・安定供給を守れるか。数十にもわたるケーススタディを考え、検討を繰り返す日々だった」

コロナ蔓延の時期と重なったこともあり、感染予防対策と熱中症対策の両立など、これまでにない困難に直面した一井だったが、それでも現在の業務には大きなやりがいを感じているという。

「準備から実施、完了後のまとめまで1年近くに及ぶ定検は、当社と協力会社の皆さまが一丸となって取り組む一大プロジェクト。多くの関係者から要望や反省点を聞き、解決するために知恵を出し合い、次の定検に生かしていく。ベースロードを担う原子力発電を安全・安定的に動かすため、今後も自分の持ち場でしっかりと責任を果たしていきたい」

安定供給最後の砦

関西電力送配電 中央給電指令所 酒井 祐介

関西電力送配電 中央給電指令所 酒井 祐介

最後に、関西電力送配電の中央給電指令所(中給)を訪れた。ここは、時々刻々と変化する関西エリアの電気の需要を予測し、調整用電源をコントロールする、安定供給最後の砦だ。

電気は貯めることができないため、季節や時間帯、気象条件などで変化する需要と供給を常に一致させる必要があり、バランスが崩れると最悪の場合エリア全体が停電してしまう。中給は、20年4月の発送電分離で関西電力送配電の組織となったが、果たすべき使命は変わらず、24時間365日、安定供給を支え続けている。

その一員、酒井祐介は08年入社。水力発電所の保守・運転業務を経験した後、中給への異動を自ら志願し、19年から需給計画や発電機の運用計画を立てる日勤業務に加え、当直員の教育・訓練も担当している。

「給電制御所*で水力発電所の運転を担当していた際、中給と頻繁にやりとりするなかで需給調整業務に興味を持った。電気の使用量は時々刻々、秒単位で変化する。それに合わせて発電量を調整するのは責任の重い仕事だが、それだけにやりがいがある」

*電力系統の監視・制御を行う。災害による停電など急なトラブルが起こった際は、素早く電気が送れるように的確な指示を出すことも役割の一つ

4カ月先の需給を予測する

日本の電力は基本的に原子力、石炭火力、水力がベース供給力を担い、ミドル電源としてのLNG、ピーク電源としての石油火力や揚水発電など調整力の高い電源でピーク需要の変動や太陽光などの再生可能エネルギーの変動に対応している。実需給時に不足が生じそうな場合は、運転停止中の調整用電源を稼動させたり、緊急用に確保している調整力を用いたり、あらかじめ定めた手筈に則り不足分を埋めていく。それでも足りない場合は他エリアからの応援融通を要請する。

「しかし昨冬は、全国的に需給が逼迫するという過去に例のない非常に厳しい状況に陥った。緊迫する状況のなか、関西電力グループはもちろん、電気事業に携わる全国の多くの方々が一致団結し、なんとか乗り切ることができた」。需給逼迫時には、調整力をかき集める、まさに綱渡りの状況だったという。

そんな1年前の経験を教訓に、再発防止のための課題抽出にも携わっている酒井。具体的には、燃料確保のために新たに4カ月先までの需給予測を始めたほか、発電事業者への燃料在庫状況の確認も進めている。

「気象情報など不確定な要素が多い長期予測は、短期予測に比べ精度は落ちてしまう。予測を定期的に見直し精度を高め、調整力確保に活用していく。まずは需給逼迫を起こさないように努め、万一、急なトラブルなどで逼迫した際も判断に迷うことなく対応できる環境をつくり、安定供給を守ることが使命」。断言する酒井から現場の緊張感と覚悟が垣間見えた。

安定供給はライフライン事業者としての使命

安定供給はライフライン事業者としての使命

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