対談【伊藤聡子×田中謙司】エネルギー需給、再検証
対談
2021.12.27

対談【伊藤聡子×田中謙司】エネルギー需給、再検証

伊藤聡子×田中謙司

脱炭素化の流れのなかで、火力発電の休廃止が相次ぎ、供給力は減少。再生可能エネルギーの大量導入が供給網の不安定化に拍車をかけている。直近の需給懸念への対応に加え、長期的な安定供給対策が求められるなか、「エネルギー需給」について考えた──

デジタル化で電気の重要性が増すのに
脱炭素化や燃料争奪で安定供給は難しい時代に

伊藤聡子

電力バランス

伊藤 本日はエネルギー需給について考えます。近年、酷暑厳冬という極端な気候が増え、昨冬は全国的に電力が逼迫するという状況になりました。一方で、コロナ禍を機にデジタル化が一気に進み、今後もその流れは加速。となれば、電力の重要性は増すのに、それを安定的に供給していくのはなかなか難しい。私は現状をそう認識していますが、いかがでしょうか。

田中 エネルギーの大きな流れを見ると、20世紀は化石電源を中心に需要に合わせて出力を調整しながら電気を供給してきたが、21世紀に入り、コントロールできない再生可能エネルギーが増加している。再エネは、脱炭素化の潮流に乗って急増していますが、天候や、時間・場所によって発電量が変動する。それをうまく調整しないといけない。
原子力発電がさほど動いていない今の日本では、火力発電に頼らざるを得ないが、アジア、特に中国の電力需要が急拡大しているなかで、火力燃料の調達が世界的に逼迫。燃料争奪戦に負けると、電力価格高騰だけでなく、安定供給に支障が出る可能性もある。

伊藤 日本はエネルギー自給率が11%台と低く、化石燃料の中東依存度も約9割と高い。燃料高騰の波にのまれると、電気料金も上がり、コロナ禍からの経済回復に大打撃。自給率を上げていかないといけません。

3日電気が止まるとGDPは年間▲3%
なのに再エネへの移行期シナリオ見えず

田中謙司

田中 東日本大震災以来、近年は台風による停電が増えているが、都市の付加価値創出活動は、電気が止まるとほとんど止まってしまう。3日止まるとGDPは年率約3%下がるといわれ、影響は甚大です。

伊藤 2001年、自由化後のカリフォルニアで大停電が起き、20年にも起きた。カリフォルニアはかなり再エネ化を進めているので、酷暑の夕方ピタッと太陽光発電が止まると、いきなり停電したりする。これが日本で起きないとは限りません。

田中 日本でも今冬は予備率が3%台の地域もあり、供給力不足になる可能性はある。

調整用電源としての火力

伊藤 先頃のCOP26でも、化石燃料は段階的に縮小する流れですが、不安定な再エネに対し火力を焚き増すなどして調整しているのに、化石燃料がダメとなると、その部分をどう補うか。今後、全世界で再エネシフトが進むにしても、蓄電池の普及にはまだ時間がかかるなか、主力にするには課題も多い。

田中 長期的には再エネに移るとしても、過渡期の設計をちゃんとしないと、調整力が減り、不都合な需給逼迫は今後も起こりうる。

伊藤 COPでの日本の発言にはすごく大事な視点がある。イギリスやEU諸国などの考え方は、確かに脱炭素に向けてリーダーシップを発揮していて、理想としてはいいが、実現するまでの過程で大混乱が起きるのではないか。移行段階として、日本は高効率石炭火力などを活用する方針。世界からは全く評価されていないが、なぜ日本がそのような移行策を進めるのかというと、気候変動に対応するために急ハンドルを切ると、移行期の安定供給に支障が出かねないから。燃料高が続くと電力が供給されない国が出てくるおそれもある。そうならないよう上手くハンドルを切りながら進む。それを世界にしっかり説明してもらいたいと思います。

予備率
電力需要の予想に対する供給力の余力を示す指標。安定供給に最低限必要な水準は3%。

COP26
国連気候変動枠組条約第26回締約国会議。2021年10月31日~11月13日英国グラスゴーで開催。決定文書には、全ての国に対し、温室効果ガス排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の段階的な削減などが盛り込まれた。

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