現場取材|革新領域に挑む
かんでん Update
2021.8.31

現場取材|革新領域に挑む

新型コロナウイルス感染拡大を契機に、ビジネスのデジタル化など社会変化が進展し、DXの流れが加速。関西電力グループでは各事業のイノベーション、デジタル化を推進させ、多様なソリューションを通じた新たな価値の提供で収益力の強化に取り組んでいる。

起業家精神をインストールするために

イノベーションラボ 和田山嗣倫

イノベーションラボ 和田山嗣倫

浜田にスタートアップとの協業について聞くと農業分野での事例を教えてくれた。

21年3月、K4 Venturesでは農業のデジタル化と営農支援サービスを展開するテラスマイル株式会社と資本業務提携し、農業分野へ一歩を踏み出した。

関西電力がなぜ農業!?そんな疑問を鮮やかに打ち消したのは、経営企画室イノベーションラボの和田山嗣倫(つぐみち)。「農業とエネルギーには実は密接な関わりがある。特にハウス栽培では温度調整のため多くのエネルギーが使われているが、その約9割は未だに重油。環境負荷の低減が求められるなか、我々が取り組む余地は大きい」

和田山は05年入社。経理部門などでコーポレートスキルを磨いた後、19年、自ら志願してイノベーションラボ発足メンバーとなった。

「ラボで社外スタートアップ案件の投資検討や、社内ベンチャー立上げのサポートを担当するうち、リスクを厭わず挑戦する起業家の情熱を肌で感じ、自分はそのエネルギーを社内にインストールする立場になりたい。そのためには自身も前線で、リスクテイクしてみる必要がある、そうしないと説得力を持てないと考えた」

そんな和田山が農業に着目したのは、エネルギーとの関わりだけでなく、耕作放棄地の増大、高齢化による就農人口の減少など、社会課題の大きさが、もともとのきっかけだ。

「一方で大規模化が進み、直近10年では生産高は微増。新規就農する若者も増えており、課題は大きいがチャンスもある。何より食物は生活に欠かすことのできない要素。そこもエネルギーと似ている」

農業×エネルギーのハイブリッドを目指す

データとAIを活用した「RightARM」

データとAIを活用した「RightARM」

提携したテラスマイル社は、14年設立のスタートアップ企業。「営農者を豊かにする」をミッションに、自ら開発したクラウド農業情報基盤「RightARM」を活用して最適な出荷時期を提案するなど、農業経営支援サービスを展開している。

今回の協業には、テラスマイル社の成長をサポートするとともに、関西電力自身も農業分野の知見を深め、事業機会の創出につなげるという2つの目的がある。まずは関西電力が04年に立ち上げた社内ベンチャー・気象工学研究所が保有する気象データをRightARMで活用し、支援サービスの精度を上げる。将来的には関西電力がエネルギー・情報通信事業で培った知見も生かした新たなサービスを生み出し、農業・食料領域におけるゼロカーボン化やSociety5.0への貢献を目指している。

「ハウス栽培で先行するオランダでは、コジェネを採り入れた超大規模施設をつくり、売電を含むエネルギーと農業とをセットで事業展開するモデルを確立している。乗り越えるべき課題は多いが、日本でも農村単位でエネルギーと農業のハイブリッドシステムを実現できれば、生産性向上と環境負荷低減の両立を図れるかもしれない」

安定とチャレンジ、両利きの経営へ

テラスマイル社との協業に先立ち、間接投資先であるFutureFoodFundとの情報交換などを通じ、約半年をかけて農業分野への理解を深めたという和田山。現場の声から日本の現状、諸外国の最新動向まで語り尽くす様子に、農業ビジネスに懸ける熱い想いを実感する。

イノベーションラボを束ねる浜田も、「新規事業を興すには情熱が必要条件。情熱があっても成功するとは限らないが、ないと絶対成功できない」と笑う。

とはいえ、関西電力はエネルギーの安全・安定供給が大きな使命。何より信頼性を求められる企業風土と、新規事業というリスクテイクは両立するのだろうか。そんな疑問を浜田にぶつけると、「だからこそイノベーションラボがある」という。

「今求められるのは、右手では既存事業をしっかり守り、左手では失敗を恐れずチャレンジする『両利きの経営』。左手を担う我々は、エネルギー、情報通信、不動産など、既存事業で培った強みを存分に生かして新領域を切り拓き、関西電力をイノベーティブな企業グループへと変革する原動力になりたい」。イノベーティブに、アグレッシブに、関西電力の新たな挑戦が始まっている。

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