新型コロナウイルス感染拡大を契機に、ビジネスのデジタル化など社会変化が進展し、DXの流れが加速。関西電力グループでは各事業のイノベーション、デジタル化を推進させ、多様なソリューションを通じた新たな価値の提供で収益力の強化に取り組んでいる。
浜田誠一郎・イノベーション担当室長
「イノベーションは狭い意味では『技術革新』だが、関西電力が経営理念として大切にしている価値観の1つが『挑戦=Innovation』。『前例にとらわれず、新しいことに挑戦する』ことこそイノベーションだ」
弾むような調子で切り出したのは、経営企画室イノベーション担当室長の浜田誠一郎。関西電力は新規事業を創出し、お客さまや社会の課題解決に向き合うべく、2019年7月経営企画室内に「イノベーションラボ」を設置、グループ全体のイノベーションを推進している。
それから2年、コロナ禍でDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が喫緊の課題となり、世界的なゼロカーボン化の潮流も加速するなか、「この変化は不可逆。エネルギー事業の厳しい状況も踏まえると、我々自身、イノベーションなしには生き残れないという覚悟で取り組んでいる」と浜田は言う。
「関西電力が目指すのは、競合他社を凌駕するくらいのイノベーションを巻き起こす企業グループになること。それに向けて、事業部門・グループ会社の自律的な取組みを後押しすることと、自ら新規事業開発に取り組むことがラボの役割だ」
事業の創出に向けた交流拠点
「enellege(エナレッジ)」
例えば「K4 Ventures」を通じた有望なスタートアップへの投資・協業を積極的に実施。「enellege(エナレッジ)」を活用したオープンイノベーション、研修やセミナーなどによる人的交流促進、「K4 Digital」と各部門のコラボによるDX推進──と多様な形でイノベーション推進を後押し。加えて、社内起業家育成のため、事業案を広く募る「アイデア創出チャレンジ」、有望な案をブラッシュアップする「アクセラレーションプログラム」、社内審査を合格すれば志望者本人も出資して起業する「起業チャレンジ制度」等を推進。こうした取組みから、地域交流型の個人旅行サービス業「TRAPOL(トラポル)」や、がん経験者向けカトラリー販売の「猫舌堂」が生まれた。他にも時速5kmの自動走行モビリティサービス「ゲキダンイイノ」、エビの陸上養殖「海幸ゆきのや」などユニークな新ビジネス誕生が相次いでいる。
「起業は0から1を生み出すもの。そういう人材は育てようとしてもできるものではない。マインドのある人を発掘し、1を10にする方法論を学んでもらい起業につなげている。もちろん事業の成功がベストだが、たとえ失敗しても、そこで得た経験は必ず次の成長のタネになる」。トラポルはコロナ禍にも関わらず、黒字化を達成。新しい旅行産業の核になる可能性があるという。
「既存事業とは距離があるがシナジーを期待できる領域、あるいは既存事業とカニバリ(競合)になるため手を出しにくい領域は、まずラボ自ら取り組んでみる」という。例えばゼロカーボン化で期待される水素事業も、ラボが取りまとめ役となって市場分析などを進め、今年5月の水素事業戦略室設置につなげた。そうしたインキュベーション機能(事業創出支援)を果たすのもラボの使命。とにかく思い切って、衝突を恐れず、幅広い領域にチャレンジしていきたい」。浜田の口調に結果への手ごたえを感じた。
上 (左)「現地の暮らしに溶け込む旅」を提供するトラポル (右)市街地を時速5kmの低速で移動する「iino」
下 (左)猫舌堂が販売するカトラリー (右)バナメイエビの生産加工販売を行う「海幸ゆきのや」