対談【夏野 剛×出雲 充】日本のイノベーション力、再検証
対談
2021.8.31

対談【夏野 剛×出雲 充】日本のイノベーション力、再検証

リーダーこそが三種の神器でポジティブ日本へとつくり変える

夏野 それを進めるには、人材の流動化を促進する解雇規制の緩和に加え、大企業側の経営陣の流動性を高める改革が必要。社内しか見たことのない役員ばかりだと、外の企業への投資なんて怖くてできないので、社外取締役の起用など外部の目を入れていく。この一連の規制緩和と行動様式の変革で、再び日本はイノベーション国家として成長できる。

出雲 生き物は、昨日今日明日、同じことをしたい現状維持バイアスがかかるが、流動性が失われたコミュニティは淀む。参入と退出が確保されているオープンなエコシステムこそレジリエント。その参入と退出が、今の日本にはない。失業に悪いイメージを持ちすぎです。

夏野 日本をダメにするものはファクトではなく雰囲気です。解雇規制も、解雇される人の立場を過剰に重視する日本的なマインドセットにより残り続け、社会全体がシュリンクしていく。雰囲気をポジティブに変えて維持できるリーダーがこれから必要になる。マインドや雰囲気を変えるのはリーダーにしかできない。社長の個性によって、会社が変わる。これは大企業でもそう。
リーダーが使えるリソースはお金と人材とテクノロジーしかないが、逆にこの三種の神器があれば何でもできる。3つ全てが国内に揃っている今のうちに、100年後も世界に冠たる国であるため、三種の神器を100%生かすことが僕らが次世代のために果たす最大のミッションです。

出雲 僕は楽観的なので、今後の日本は大丈夫だと思っています。おそらく4年で雰囲気が変わる。2025年、日本の生産年齢人口の2人に1人がミレニアルとZ世代に切り替わる。この世代は、いわばデジタルネイティブとソーシャルネイティブ。デジタルを武器にサステナビリティを行動原理にして社会課題解決に向かう人が増えると、政治の意思決定も、企業の投資活動も、生活者の消費行動も変わる。今は正直、閉塞感があるが、人が変わり、技術があって、チャレンジするために最低限必要なお金があれば、25年から日本は再び素晴らしい国になると思います。

レジリエント(Resilient)
変化に対応し、しなやかに適応する力。

主要世代の特徴
  サイレント ベビーブーム ジェネレーションX ミレニアル
(ジェネレーションY)
ポストミレニアル
(ジェネレーションZ)
出生時期 1928~45年 1946~64年 1965~80年 1981~96年 1997年~
世代の
成長期における
主な社会情勢
世界大恐慌、
第二次世界大戦、
電化製品の登場
冷戦、月面着陸、
公民権運動、
ベトナム戦争
石油ショック、
ウォーターゲート事件、ベルリンの壁崩壊
(冷戦終結)、
インターネットの登場
同時多発テロ事件、
イラク戦争、
エンロンショック、
ソーシャルメディアの出現
グレート・リセッション、アラブの春、
WikiLeaksの開設、
人工知能(AI)の進歩
代表的な製品 自動車 テレビ パソコン スマートフォン/
タブレット端末
AR/VR、3Dプリンタ、
自動運転車
コミュニケーション メディア 手紙 電話 電子メール/SMS SMS/
ソーシャルメディア
SMS/ソーシャルメディア/絵文字、小型通信端末(ウェアラブル装置、スマートテキスタイル等)
デジタル技術の
習熟度
アナログ
(pre-digital)世代
デジタル移民
(digital immigrant)
アーリーアダプター
(early digital adopter)
デジタルネイティブ
(digital native)
生来のデジタル/
テクノロジー依存
(digital innate/
technoholic)世代
特徴・傾向 規律正しい核家族家庭で育った世代で、族やコミュニティ、国への忠誠心が強く、チームやグループの共同活動に献身的に取り組む 私生活より仕事を優先することが多い最も熱心な働き手世代として知られる 前世代より独立心や順応性が高くテクノロジーに精通した世代で、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を重視する 最も教養が高く、人種の多様性に富んだ世代で、活動的でテクノロジーに精通し、社会意識が高い ミレニアル世代と同様の特徴を多く有するが、完全なスマホ/SNS世代である。2008年のリーマンショック後の経済不況で両親が財政的困難に陥っている状況を目の当たりにしたことで、雇用の安定性を懸念し、事業を興すことへの関心がより高い
JETROの資料をもとに作成

長期構想ができる電力会社こそ世界規模に育てるイノベーション投資を

夏野 ベンチャー投資同様、賢くお金を使ってほしいのは、エネルギーも同じ。国民にかなり負担を強いて再エネに補助金をつけているのは、正しいお金の使い方ではない。太陽光もやるけど、もっと電源の多様化が大事。
電力会社というのは、インフラ企業です。今までは発電所で電力をつくって届ける供給会社。そうでなく、各戸に蓄電池を配るくらいのことをしてもいい。10kWの蓄電池を500万世帯につけたら5,000万kWの発電所を持っているのと同じになる。各戸に蓄電池があるわけだから、災害にも強い。EVに蓄電し、国全体で蓄電する、そういう新しい時代の電力ネットワークをぜひつくっていただきたい。

出雲 僕は電力会社にシンパシーを感じています。今の社会はあまりに短期志向、今の子供たちは100歳まで生きる可能性が高いのに、100年後に向けた政策は考えてない。エネルギーや電源開発、イノベーションというのは時間がかかる。ユーグレナの研究が進み、ユーグレナを使った食品や化粧品などを商品化して皆さんにお届けするのに25年、その後会社をつくってバイオジェット燃料を完成させるまで15年だから、先達の研究スタートから足かけ40年かかっている。
電力会社も発電所の計画を立てて、建設し、電気を顧客の家に届けて喜んでもらえるまで20年30年かかる。言い換えれば、電力会社は20年後30年後の未来社会を構想する力がある。だから、構想力がある電力会社に大学発ベンチャーを応援してもらいたい。30年後の社会をデザインして、必要な技術に投資をし、30年後に電力販売の10%くらい売り上げるユニコーンに育てればいい。長期に物事を考えられる人がいる会社と、長期の研究開発が必要な大学発のスタートアップが一緒になるのは、意味があると考えます。

夏野 明るい未来が築けそうですね。本日はありがとうございました。

K-VIPs:関西電力が開発したVPP(仮想発電所)統合プラットフォーム図
夏野 剛
夏野 剛
KADOKAWA代表取締役社長
1965年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒、ペンシルベニア大学経営大学院卒。東京ガス、NTTドコモ執行役員などを経て、2019年ドワンゴ代表取締役社長、21年6月より現職。慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授、内閣府規制改革推進会議委員なども務める。
https://group.kadokawa.co.jp/company/topmessage.html
出雲 充
出雲 充
ユーグレナ代表取締役社長
1980年広島県生まれ。東京大学農学部卒。東京三菱銀行を経て、2005年ユーグレナ創業。微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の食用屋外大量培養に世界で初めて成功。15年第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞、日本経済団体連合会審議員会副議長などを務める。著書『サステナブルビジネス』『僕はミドリムシで世界を救うことに決めた。』など。
https://www.euglena.jp/companyinfo/message/
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