対談【夏野 剛×出雲 充】日本のイノベーション力、再検証
対談
2021.8.31

対談【夏野 剛×出雲 充】日本のイノベーション力、再検証

技術革新で余った人がイノベーションを起こす

出雲 大賛成。日本がデジタルを社会実装できなかったのは、生産性向上という目的を共有できなかったから。日本株式会社の究極のゴールは、失業者を出さないこと。デジタル化は労働者の流動性を高め、一瞬、失業率が上がる。それを日本は許さない。DXは進めるが、課長にメールで報告し、部長にファクスで報告、社長には印刷して報告するから、デジタル化は人手が3倍必要。生産性は上がらず、GDPも給料も上がらなかった。

夏野 面白いのは、人類の歴史って、技術発展が生産性を向上させ、余った人間がイノベーションを起こす。2000年前は全員で農耕していたが、鋤鍬など農業技術の発明で半分の人数で済むようになり、余った人が村を守る兵士や手工業者になった。産業革命で機械生産が始まると、また大勢の人が余ったので、今度はサービス業が興るというように、技術革新で余った人がイノベーションを起こす。それは歴史が示しています。

VCでなく企業自ら投資するのが日本流エコシステムだ

夏野 今、日本では起業する若者が増えているが、問題はベンチャー企業を大きく育てるお金の流れがないこと。そこで着目したいのが、大企業が抱え込んでいる約500兆円もの内部留保。大企業が有望なベンチャー企業を買収してレバレッジし、100倍、1000倍の規模に育ててくれるとスケールアップできる。これは日本流のエコシステムになる可能性がある。

出雲 希望が湧いてきました!ベンチャーへの投資、VC*のリスクマネー供給額は、コロナ禍の1年間で、アメリカでは15兆から17兆に2兆円増えた。中国は2.5兆から3兆に5,000億円増。ドイツもフランスも韓国も増えているのに、日本だけ2,000億円から1,500億円に縮んでいる。

夏野 これはVC側にも原因がある。アメリカのVCは上場したらさらに買う。日本は売り抜ける。日本のVCの大半が金融機関関係者で、事業経験のある人はほとんどいない。だから事業に心酔することはなく、自分の報酬しか考えない。VCに期待するのでなく、大企業が自ら自社の関連事業を買収したり投資してほしい。これが、私の考える日本流のエコシステムです。

出雲 なるほど、大企業の内部留保をリスクマネーとして生かすと。それ、大爆発しますよ。僕は日本の大学発ベンチャーは奇跡を起こせると確信している。なぜならユーグレナ社を創業した2005年以降、全国で700以上ある大学と国立研究開発法人がつくったスタートアップは2020年10月時点で2,905社。うち上場企業は66社ですが、時価総額は合計3兆円。その中で、ユーグレナ社を含む7社は、上場後に時価総額が1,000億を超えており、7社の合計時価総額は2兆円弱。世界で戦えるスタートアップに育てれば、日本は競争力を持てる。
日本の大学にはイノベーションの種がまだ眠っています。だから例えばお金の使い途を探す有力地銀64行のアセット計200兆円と各地域の大企業の内部留保を、世界で注目されそうなスタートアップに投資すれば、47都道府県から、我が町のユニコーンが出てきます。

VC(Venture Capital)
未上場の新興企業(ベンチャー企業)への出資者。

ユーグレナ提供写真

提供 ユーグレナ

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