WEF*世界競争力ランキングでの日本のイノベーション指標は8位、IMD*ランキングでの総合順位は過去最低の34位と、日本の存在感は低下。デジタル化にも後れをとっていたが、9月デジタル庁も発足するなか、「日本のイノベーション力」について考えた──
夏野 本日は日本のイノベーション力について考えます。出雲さんが日本で数少ない大学発ベンチャーの雄であるように、本来、日本の技術開発力は弱くない。ところが近年、日本の国際競争力は下がりっぱなし。日本の状況をどう見ていますか。
出雲 僕は平成元年、小学校3年生でした。当時はまさにエズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のとおり、日本があらゆるランキングで世界1位だと思っていた時代。30年経って平成が終わり、今や日本は1人当たり労働生産性をはじめ多様な指標で1位から30位程度に転落。平成の日本は30回も落ち続けた浪人生であり、令和は平成と違うことをやればいい。それが、私の今日一番申し上げたいことです。
夏野 平成元年、僕は入社2年目。当時日本はバブルで、日本にいると日本は凄いと思うけど、直前に渡米した僕が見たアメリカは、国力のレベルが桁違い。失業率など厳しかったが、単一で均一な日本と比べ、社会の器の大きさ・懐の深さを痛感。日本の時代は長続きしないなと。
夏野 平成の日本を僕なりに見て、技術は結構あるんです。僕自身も、スマートフォンが出る前にスマホのようなガラケー「iモード*」を日本でつくった。だけど、レバレッジが効かない。ユーグレナが出たときも、アメリカなら、10倍の資金が集まり、100倍の時価総額がついたはず。でも日本だとマザーズに上場した企業の8割が上場時の時価総額を上回れず、ソコソコ止まり。新しいものを拒絶する日本的なマインドが会社経営やビジネスのアプローチにまで染み込んでおり、イノベーションの芽は出るが、大木に育たないんです。
出雲 大木に育つには、ビジネスの生態系(エコシステム)が必要です。確かにアメリカでは、成功した先輩が苦労している後輩のアントレプレナー*を寄ってたかって応援する。シリコンバレーにはそういうエコシステムがある。成功した起業家によるエンジェル投資*は、アメリカの2兆6,000億円に対し、日本は僅か42億円。日本では皆に応援されることもないし、芽がちょっと出たところで凄いプレイヤーが来て、パクッと食べられたら、もうお終い。
夏野 イノベーションの芽を育てられないのと同様、日本はDXもモノにできていない。平成時代、成長が止まるのは1996年以降です。96年はヤフージャパンが開業し、日本のIT革命元年。
米国ヤフーのサービス開始が94年12月、ヤフージャパンは96年4月だから、日本は早かった。
ところが96年を起点に2019年までのGDPを見ると、日本は23年間で4%しか成長してない。
アメリカは165%、イギリス100%、フランス70%、ドイツ60%と、どの国もIT革命を利用して生産性を上げたが、日本だけが4%。95年日本の製造業の生産性はトップだったが、19年の1人当たり労働生産性はG7で最下位、OECD加盟国中26位。これは日本だけがITを社会に実装できなかったということ。技術進化が社会システムを変えるのに、日本は変わらなかった。
出雲 なぜですか。
夏野 ウーバーやオンライン診療がなかなか解禁されなかったように、既得権益を守ろうとする勢力の存在。これが1点。より深刻なのは、テクノロジーで組織内の階層も人の数も減らせるのに、どの企業も人の側の仕組みを変えていない。テクノロジーは存在するだけでは意味がない。それを社会に実装し、人の側の仕組みを変えなきゃダメなんです。