2026年5月1日に75周年を迎えた関西電力。電気のある「あたりまえ」の暮らしを守り、未来の「あたりまえ」を創るために、挑戦を続ける関西電力グループの姿を追った。
高浜発電所 副所長 松本秀樹中東情勢の緊迫化に伴い、準国産エネルギーである原子力発電への注目が高まっている。福井県にある高浜発電所は国内で唯一、4基の原子炉が稼動する原子力発電所だ。安全・安定運転を積み重ねながら、長期運転を見据えた設備の信頼性向上にも取り組んでおり、現在3号機で蒸気発生器取り替え作業が行われている。
「原子力の維持には、地域の皆さまからのご理解とご協力が不可欠」と高浜発電所で地域共生に取り組む松本秀樹は話す。地域共生活動の基本は「発電所の取り組みを広く知らせる」「地域の皆さまの声を事業運営に反映する」「地域の一員として発展に貢献する」の3つだ。
情報提供では、地域のオピニオンリーダーとの対話や見学会実施に加え、地域の全戸を訪問し、疑問や不安に向き合う。全戸訪問等で寄せられた意見は、地域の声として四半期に一度経営層に報告しており、経営判断に生かされている。地域発展への貢献では、2024年度に「LIVING TAKAHAMA PROJECT」を立ち上げた。高浜町職員と発電所若手社員で町の魅力向上に取り組むもので、24年度は地魚メニューを開発し、25年度は地域で栽培するレモンの認知度向上に向け、ゆるキャラ開発やSNSで発信を行った。
地域共生活動に力を注ぐ
イラスト・絵画コンクールの作品「原子力に関する情報提供はどうしても専門的で難しくなりがち。何を言っているかわからないと厳しい声をいただくことも。だからこそ耳を傾けてもらえるよう、地域の方々との関係構築が重要」と松本は強調する。
高浜発電所では、地域のお祭りやイベントに積極的に参加するとともに、次世代層とのコミュニケーションにも力を注ぐ。小学生向け発電所見学や中学生の職場体験、クリスマス会や運動会への参加、イラスト・絵画コンクールと活動の幅は広い。イラスト・絵画コンクールは、地域の子供たちと発電所の心の距離を近づけたいと25年から始めた。

「『発電所のある風景』をテーマにした際、発電所と遊園地が融合する絵を描いてくれたお子さんがいた。この子にとって発電所は楽しいところなんだと、すごく嬉しかった」と松本は顔をほころばせる。クリスマス会で仮装をしたり、お祭りではバルーンアートをしたり、地道な活動の成果かもしれない。
最後に「世界No.1へ、高浜プライド」と記された発電所オリジナルのTシャツを見せてくれた。「地域共生活動は成果を数字で測れるものではない。だからと言ってその積み重ねをおろそかにすれば、信頼関係はあっという間に崩れてしまう。丁寧に着実に、顔の見える活動を続けることが高浜プライドだ」
世界一の発電所へ、地道な歩みは続く。
現在、日本の電力の約7割を賄っているのが火力発電だ。電力の安定供給を支える重要基盤だが、持続的な活用に向けゼロカーボン化は不可欠。関西電力では、既設LNG火力の高効率化に向け設備更新を進めながら、水素発電を視野に既設火力発電所を活用した水素混焼発電実証に取り組んできた。
火力事業本部 火力開発部門「燃焼時にCO2を排出しない水素発電は、火力発電のゼロカーボン化に向け期待が高まっている」と話すのは、水素混焼発電実証に火力設備担当として参加した神野瑞穂。水素発電の実現可能性調査に始まり、水素発電を行うための設備改造や水素配管の製作・据付工事、そして実証試験まで見届けた。
今回の実証では、水素発電の商用化に向けた知見獲得を目的として、姫路第二発電所にある事業用大型ガスタービンを水素混焼用に改造した。加えて発電所構内に新しく水素製造設備を設置し、製造した水素と天然ガスを混焼し水素混焼発電を行った。実証試験においては、水素混焼による設備への影響、安定運転の継続可否、CO2削減効果などの検証を行った。
2025年6月6日、目標としていた混焼率30%(体積比)の水素混焼発電を達成。既設の事業用大型ガスタービンを活用した、混焼率30%達成は日本初だ。
実証で発電した電気の一部は系統を通じて大阪・関西万博会場へ供給し、関西電力の水素発電への取り組みを国内外に発信できた。
大阪・関西万博に水素発電の電気の一部を届けた水素は天然ガスに比べて燃焼スピードが速く、着火時に火炎が上流側に逆流する逆火現象が発生しやすいという課題がある。今回の実証ではこの水素発電特有の課題を踏まえ慎重に試験を実施したことから、逆火を起こすことなく、最大混焼率30%まで技術的に運用可能であることを確認した。
安全面では、可燃性を考慮し、水素が滞留する箇所の換気の実施、防爆仕様設備の導入など事故防止対策を徹底した。
実用化にあたって最大の課題は、燃料となる水素を大量に調達するための、サプライチェーン構築だ。今回の実証では週に1~2回、水の電気分解によって製造した水素を使って数時間の試験を行ったが、継続運転をするためにはより多くの水素を低コストで安定的に貯蔵・供給することが必要になる。
本実証を振り返って、神野は「未来ある水素発電プロジェクトに挑戦できたことに大きなやりがいを感じた。現在進めている火力発電所の設備更新では、将来の水素混焼、専焼を見据えた設備設計を検討しており、火力発電所のゼロカーボン化の実現をめざして進めていきたい」と意気込みを語った。天然ガスから水素へ、将来を見据えた構想が進んでいる。
姫路第二発電所での水素混焼設備
ソリューション本部 開発部門 大澤園子電力需給の安定を支える新しい手段として、注目が集まるのが蓄電所だ。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの比率を40~50%に増やす方向が示されている。太陽光や風力といった自然環境によって出力が変動する電源が増えてくると、電力の需要と供給を常に一致させる調整力がより重要になってくる。一方、調整力を担う電源・設備は多様化しているものの、その中核を担ってきた火力発電はゼロカーボン化が求められる等事業環境が変化。新たな調整力の確保が重要な課題となっている。
蓄電所は系統用蓄電池を電力系統に直接接続し、充放電を行う発電所の一種。「電力の余剰時に充電し不足時に放電することで、再エネの有効活用と電力需給の安定化に貢献する。エネルギー安全保障の面でも化石燃料に頼らない蓄電所の役割は大きい」とソリューション本部で蓄電所事業開発を推進する大澤園子は強調する。
関西電力では、24年12月、他電力会社に先駆けて国内最大級の規模を持つ紀の川蓄電所の運転を開始。大型蓄電所の開発と運用で得た知見をもとに、大阪の岬町、札幌、水戸、浜松、筑後、阿蘇など北海道から九州まで全国各地で事業計画を進めている。

関西電力では、幅広い事業者さまの蓄電所事業への参画を後押しできるようグループのリソースを生かし、蓄電所の開発から運営までをサポートするワンストップソリューションサービスの提供を積極的に推進。23年には最適な充放電のタイミングや売電市場を選定し蓄電所運用を担うE-Flowを設立。25年には蓄電所の保守・メンテナンスサービスを提供するK2-BatOMを設立した。
他方で、事業にいち早く取り組んできた関西電力として、蓄電所が持続可能な調整力電源になるよう制度を整備する国のワーキンググループにもオブザーバーとして参加。新規参入事業者が増え、日本全体の電力需給を見越した長期的な視点からの制度整備が急務となっているためだ。
蓄電所事業という新たなビジネスモデルの構築には挑戦の姿勢が欠かせない。「紀の川蓄電所では制度設計が議論、整備されているなかでいち早く事業化を進めてきた。壁にぶつかることも多いが、1つ1つ乗り越えることで競争力が身についてくる。26年6月末時点での総出力は41.6万kW。再生可能エネルギーの導入拡大と電力需給の安定化に貢献するために、蓄電所事業のトップランナーとして、アクセル全開で進めていきたい」と、明るい声で抱負を語る大澤。目標は2030年代早期に総出力100万kWを達成することだ。
関西電力送配電 神戸本部 明石配電営業所「あたりまえ」にある電気、しかし、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災により、電気のある「あたりまえ」の日常が一瞬にして失われた。「加古川の自宅から職場の三宮へ向かう途中、被災した神戸の街を目にし、本当に復旧できるのか不安だった」と話すのは関西電力送配電の習田洋。当時は三宮営業所技術課に所属する入社5年目の若手配電パーソン。電柱に昇り配電設備の保守・保全をする業務に携わっていた。
震災復旧は応急送電に向けた被害状況の把握から始まった。震災当日、習田は同僚と2人で指示された現地へ向かった。家屋が倒壊し、電柱が傾き、電線は至る所で切れていた。「当時は携帯電話も普及しておらず連絡手段が限られていたため、現場の状況を見て自ら判断し行動する場面もあった。余震が続くなか、電柱に昇る時、自分の安全は自分で守るという意識を持つことが重要だった」。道路が寸断されて営業所に戻れず、車両で仮眠をとる夜が続いた。疲れはあったが「何としても電気を届ける」という使命感が復旧に携わる人々を突き動かした。他の事業所や工事会社、全国の電力会社の応援を得て、かつてないチームワークが発揮された。
応急送電は7日間で完了。「電気が復旧した時にお客さまからいただいた『ありがとう』の言葉に救われた」と習田。電気のある「あたりまえ」を守る責任を実感し、やりがいを感じた瞬間だった。
阪神・淡路大震災での復旧作業
24年に発生した能登半島地震では近年は気候変動の影響により、大型台風や局地的な大雨など自然災害が激甚化し、停電リスクが高まっている。安定供給を守るため、ドローンによる設備点検やAIを活用した設備異常分析など新しい技術の導入を進めている。
「どれだけ技術が進歩しても最後に現場を支えるのは人。特に災害時は状況を見て判断し、安全を確保しながら迅速に行動する力が求められる。現場で考え、動ける人材を育てていくことが重要」。こう話す習田は現在、技能訓練や災害復旧訓練などを通じて若手配電パーソンの育成に当たっている。訓練では、技術だけでなく社会インフラを支えている責任感を伝えることにも力を注ぐ。
阪神・淡路大震災から30年以上が経ち、当時を経験した社員が少なくなってきた。震災復旧の経験や学びを次世代へ伝えていくことが習田の目標だ。「電気のあるあたりまえを守り続けることが私たちの使命。設備・技術・人材をさらに強化し、どのような状況下でも安定供給を守れる配電パーソンを育成していきたい」
全社技能発表会等で技術を磨く