関電不動産開発立山黒部アルペンルートの長野県側に位置する大町市では「関電不動産開発 くろよんの森」プロジェクトが始まった。関電不動産開発が同市内に所有する約50haの未活用地を整備し「持続可能な未来につながる森」として再生する取り組みで、25年5月、大町市立ち合いのもと、北アルプス森林組合、環境リレーションズ研究所、関電不動産開発が「森林整備協定」を締結した。
ここはかつて、関西電力が黒部ダム建設時に作業員の宿舎や資材置き場等に利用していたエリアであったが、近年は未活用地となっていた。
「森づくりの取り組みは社内でサステナビリティ活動を検討するなかで出てきたアイデア。ゼロカーボンの推進、生物多様性の保全、地域社会への貢献の3つに資する取り組みと位置づけている」と話すのは、経営企画部の山野一樹。24年8月に関西電力のジョブチャレンジ制度を活用し、関西電力から関電不動産開発に出向し、プロジェクトに参画した。適切に森を管理することは、松くい虫などの虫害被害防止やクマなどの大型動物との緩衝帯機能に繫がるという。
「関電不動産開発 くろよんの森」の先駆けになったのが、「シエリアツリープロジェクト」。同社が展開するシエリアブランドの住宅契約1件につき1本の苗木を寄附するというもの。25年5月までに認定NPO法人環境リレーションズ研究所が運営する「Present Tree」を通じて、飛騨高山の山林に651本の寄附植樹を実施した。25年6月契約分より植樹先を「関電不動産開発 くろよんの森」に変更し、順次植樹を開始していく。
2025年10月に実施した植樹式の様子
生態系保全やCO2吸収量の増加のため古木を伐採。自生している広葉樹は極力残しながら、ヤマモミジ、ヤマボウシ、コブシ、ホウノキ、タムシバ等の地域固有種を植樹することで森の健全化を図る。伐採した木は加工して建材や家具材、バイオマスチップ等、様々な活用方法を検討しており、森林資源の循環活用をめざす。さらに四季折々に景観を楽しめる遊歩道を整備し、地域活性化にも繫いでいく。
「当初は、森づくりに関する知識も経験もなく手探り状態だったが、社内関係者はじめ北アルプス森林組合や環境リレーションズ研究所、大町市の協力を得てようやくプロジェクトを形にすることができた」と山野は振り返る。この秋には第1回植樹式を実施し、同社の若手社員代表者や社外関係者が各々思いを込めながら植樹を実施した。
「森の整備は1ha当たり2,000本から3,000本の植樹が必要で何十年もかかる息の長いプロジェクト。イベント企画等、様々なしくみづくりで森に関わる人を増やしていき、10年、100年と続く持続可能なプロジェクトにチャレンジしていきたい」
事業を通じた社会貢献のなかで未来を担う人づくりに繫がるのが次世代層育成だ。関西電力送配電では工業高校生を対象に職業体験プログラムを実施している。「職場体験や設備見学を通じて送配電事業を知ってもらい、職業選択の幅を広げてもらうことが目的」と話すのは、関西電力送配電和歌山本部で広報を担当する稲垣京介。発電所でつくられた電気を安全・安定して社会に送り続ける送配電事業。「災害等による停電発生時には最前線で復旧作業を担う。暮らしを守る重要な仕事だが、事業内容の認知度は低い」と課題を口にする稲垣は、職場体験を通じた業務理解にも意欲を燃やす。
2025年度は紀北工業高校電気科の生徒28人が参加。午前は橋本配電営業所で会社や配電営業所の概要、停電復旧時の配電自動化システムについて説明を受けたのち、グループに分かれて高所作業車の乗車体験、電線切断・復旧作業などを体験した。フルハーネス型墜落制止用器具を着けて高所作業車に乗り、高さ10mの位置からロープで工具袋を引き上げる作業や感電防止用保護具を着用し、通電していない電線を繫ぐ作業など、実際の業務に近い体験ができるのが特徴だ。午後は紀の川変電所に移動し、超高圧変電設備を見学した。
関西電力送配電 和歌山本部職業体験の準備段階では、送配電事業をわかりやすく伝え、興味を持ってもらうために広報担当と橋本配電営業所など現場のメンバーが知恵を出し合った。限られた時間の中で多くの体験ができるように、4グループに分けて4つの作業をローテーションするプログラムを組んだ。変電所見学では高校生と年齢の近い若手社員が対応し、話しやすい雰囲気をつくった。
「初めは緊張した面持ちだったが、担当する社員が丁寧に説明することで、高校生たちとの会話や質問が少しずつ増えていった。一緒に作業を体験することで、働くことの楽しさと大変さを実感してもらえたのではないか」と稲垣。
職業体験後のアンケートでは全員が「参加してよかった」と回答。「高所作業の大変さと安全の大切さがわかった」「普段使っている電気が関西電力送配電を通して送られていることが学べた」「将来電気系の仕事に就きたいと思った」などの感想があり、手ごたえを感じている。
稲垣は「次世代層育成は電気のある“あたりまえの暮らし”を守り続けることに繫がる。職業体験を通じて送配電事業を知り、将来を考えるきっかけになれば嬉しい」と笑顔で締めくくった。