
火力事業本部火力運用部門 デジタル運用グループ
宮川拓馬
梅本にDXが進む現場として火力事業本部を紹介してもらった。
関西電力火力事業本部は2023年度に策定したO&Mビジョンに基づき、発電設備の運用管理・保守点検業務の効率化・高度化を図るべくデジタル化を進めている。労働力人口が減少するなか、ベテランの経験に頼るだけではなく、ロボットやAIにより巡視点検のノウハウを継承することで、事故を未然に防ぐ高精度な保守管理を維持することが目的だ。
その一歩として発電設備の巡視点検の自動化に向けた実証実験を堺港発電所で実施している。火力発電所は発電機やタービンなどの屋内設備と排熱回収ボイラーなどの屋外設備に分かれる。既に屋内設備では、センサーやカメラを搭載した自動走行型のロボットが集めたデータをAIで解析する実証実験を終え、現在は屋外設備での実用化に向けた実証実験を進めている。
「排熱回収ボイラーなどの屋外設備は高低差が大きく、自動走行型のロボットによる巡回や通信用LANの設置が難しい。そこで監視カメラや振動・音響・漏水などの各種センサーとAI診断システムを無線で結ぶ新しいソリューションを考案した」と話すのは、入社4年目の宮川拓馬。火力発電所で現場業務に携わった後、2023年7月から火力部門のDX案件を担当。巡視システムの設計・検証から施工、運用まですべてに関わり、屋外設備における巡視点検の自動化に向けた検証で抽出した課題解決に取り組んでいる。
課題の1つは、監視カメラの画像を診断する際に、わずかだが誤検知が発生すること。屋外では季節や時間帯あるいは天候によって太陽光の当たり方が異なり、正常であってもAIが異常と判断してしまうことがある。誤検知によるアラートの頻発は、現場の確認業務の増加につながるため、大きな課題である。
しかし、「誤検知をゼロにすることは、常に状況変化する現場においては現実的ではない」と宮川。そこで、発電所の運転に影響する重要な設備は常時AIで監視し、アラート発出時に現場確認を行うなどの省力化を進めている。「大切なのは、ロボットやAI技術がどれだけ進歩しても人による最終判断は残すこと。今後もAIの活用により様々な課題を解決していきたい」
堺港発電所の巡視点検の自動化は、数年後に予定されている南港発電所のリプレースにも活かされる。現場業務の効率化を通じて、現場で働く人々が今まで以上にやりがいを持ち、生き生きと働ける職場をつくることが火力発電所のDX最前線に立つ宮川の目標だ。
オプテージDXソリューション部
DXソリューション推進チーム
チームマネジャー 湖亀祥文
DXの取り組みは関西電力グループにも広がっている。コンタクトセンター業務の課題をデジタル技術で解決するサービスを開発・提供しているのが、関西電力グループで情報通信事業を営むオプテージのDXソリューション部だ。
お客さまからの問い合わせに応対するコンタクトセンター。近年、簡単な質問や疑問は、ホームページなどで解決できるようになり、電話での問い合わせは専門知識が求められるケースが増え、応対の難易度が上がっている。業務に携わるオペレーターの負担は増し、人材不足は業界全体の課題だ。
同社がコンタクトセンター向けに開発したサービスがEnour( エナー)。Enourには、AIによる問い合わせ自動応答サービス(AIチャットボット)、AIを活用したオペレーター支援システム(コールアシスタント)、AI対応できない問い合わせにオペレーターが対応するための有人チャットサービスなどがある。
「当社のコンタクトセンターで働いているオペレーターや現場を統括するスーパーバイザーの意見を聞き、シンプルで使いやすい設計を実現した」と特長を挙げるのは、DXソリューション推進チームを率いる湖亀祥文。
Enourシリーズの中で最も開発に力を入れたというコールアシスタントは、お客さまとの電話のやりとりをリアルタイムにテキスト化して画面に表示する仕組みだ。通話中は、会話内容が画面に表示されるほか、“上司を呼べ”などの要注意ワードが発せられるとスーパーバイザー画面にアラートが表示され、大きなトラブルになる前にサポートができる。AIが回答をサポートする機能もあり、従来と比べ短い研修期間でオペレーター業務に就くことができ、教育コストの削減にもつながっている。直近では、生成AIを用いた自動要約機能をリリース。コールセンターの要件に合わせた応対履歴の自動作成が可能となったことで、終話後の応対内容の記録にかかる時間を大きく削減することができた。
Enourは関西電力のカスタマーセンターや全国の送配電会社が運用する共同チャットセンター、通信・金融系のコンタクトセンターなどで採用され、お客さまから高い評価を得ている。今後は、AI技術の進展に伴うサービスの高度化や新たな付加価値による競合との差別化も必要だ。「今後は、応対内容の自動分析によりオペレーターにアドバイスを返す機能も検討している。日々進化する技術を活用し、クライアント企業やオペレーターに役立ち、さらにお客さまにも満足してもらえる三方良しのサービスを提供していきたい」と湖亀は抱負を語ってくれた。