DXを中期経営計画の取り組みを推進する原動力と位置づけ、データに基づく事業活動の推進やコスト構造改革、新たなソリューション開発を加速させる関西電力グループ。
現場とIT部門が一体となって進めるDXの現場を追った。
脱炭素化、人口減少が進み、関西電力の経営環境は大きく変化している。なかでもデジタル環境は2023年頃からの生成AI普及を機に、すさまじい速さで進化しつつある。「2030年頃に破壊的なイノベーションをもたらすAI産業革命が到来することを想定し、DXビジョンを明確化。将来像を描き、DX戦略ロードマップを再構築した」。こう切り出したのは、IT戦略室長の上田晃穂だ。
DXビジョンは2つの領域で方向を示している。事業部門DXは「各事業領域におけるデジタル変革」、オフィス業務DXは「AIエージェントと創る新たな働き方」をめざす。それぞれに価値創出、生産性向上を図ることで、中期経営計画に掲げたKX(KandenTransformation)を実現していくというものだ。
事業部門DXでは、需給オペレーションをサポートするAI の導入、ロボットやAIを活用した高度なO&M(Operation & Maintenance)を実装したデジタル発電所、AIによる営業活動フルサポートなどの実現をめざす。オフィス業務DXでは、仕事を共創する自身のエージェントとしてAIを活用し効率化を図る。「議事録の作成や収支管理などAI が得意とする部分はAIに任せ、人とのコミュニケーションや信頼関係の構築など、AI にはできないことを人間が行う。AI によって仕事が奪われるのではなく、AIと人間が一緒になってより良い働き方を創っていくのがDX の目的」と上田は強調する。
現在は、火力発電所の巡視点検ロボット、電力系統に点在する需要家の機器をあたかも1つの発電所のように機能させる仮想発電所(VPP)、営業活動支援のAI化などに力を注ぐ。
DXを加速させるべく、DX戦略委員会・各部門・K4Digitalが三位一体となった体制を構築。委員会が方向性を示し、取り組み主体となる各部門が業務課題を整理。技術的なサポートをするK4 Digitalが各部門と一緒に解決策を練る。
「K4 DigitalのK4は通称『くろよん』と呼ばれる黒部ダムに因んで付けた。未曽有の挑戦をした関西電力の挑戦マインドを継承し、デジタルの力で電力ビジネスを変革していく会社をめざしている」。上田はK4Digitalへの期待を込める。
DX推進に向けての課題は、社員全員が危機感を高め、機会を捉えること。関西電力グループ内のステークホルダーがどんな課題を抱えているのか、顧客起点・ニーズ起点に立って考えることが必要となる。そして経営・事業課題にデジタルを掛け合わせることで価値、成果を出していく。そのための人財育成も重要だ。
DX推進には社員の実践が欠かせない。「電力会社の社員はともすると安全・安定志向になりがちで、挑戦を促すような組織風土を戦略的につくり込む必要がある。そのために話しやすさ、助け合い、挑戦、新奇歓迎といった心理的安全性を確保し、失敗してもその経験から学べばよいという風土をつくっていきたい」。IT戦略室長としての強力なリーダーシップを自らに課す上田の言葉には、改革への強い意志が見えた。