>「第1章 出口の見えない“モヤモヤ期」はこちら
>「第2章 熱量があれば、実現する道はいくつもある」はこちら
>「第3章 ニーズが既にあるものを作っても面白くない」はこちら
検証期間にトライアルプランを販売!?
こうして半年の検証期間が終わる頃には、提携したベトナムの旅行代理店を通じて既に15名に「TRAPOL」の旅行プランのトライアル版を販売するところまで進んでいた。
まだプロダクトは完成していないが、トライアルプランとして値付けをし、体験してくれたモニターに提案。20人に投げかけたところ、内15名が購入意思を示してくれた。
本来は設立してからやることなのかもしれないが、起業チャレンジの結果がどうであれ事業化するつもりでいた森脇は、とにかく実績が作りたかった。
売上の目処を立てたかった。
———そして、臨んだ最終審査。
実際に15人に販売するという実績、既に現地で400人のサプライヤーを持っていることは、事業の実現性という部分で大きな評価ポイントとなった。
また、森脇が再び披露した「TRAPOL」のイメージ動画は、モニターによる体験映像も加わり、よりサービスがリアルにイメージできる状態に仕上がっていた。
https://www.youtube.com/watch?v=TK2lnKM4OoA
また、数字でも説得力を加えた。
サプライヤー・モニターらによるアンケート結果や、SNS広告による調査などで得られた結果を盛り込む。
アンケート収集の結果、モニター20人中17人がこのサービスを推奨すると回答したこと。非利用者へのアンケートで74%が利用したいと興味を持ってくれていること。
そしてサプライヤーにおいても、54人の体験者のうち、51人がまた利用したいと言ってくれたことなど、生の声を数字で伝えた。
事業FS期間におけるこれらの実績は、最終審査で高く評価された。
———結果。
森脇は唯一の合格者となった。
そして、TRAPOLを合同会社として事業化検討することが決まった。
合格の知らせを受けた森脇はもちろん嬉しかった。
しかしそれよりも、「一刻も早く事業化したい!」という想いの方が強かった。
ここまで自分を支えてくれた仲間の顔を浮かべ、感謝と共に、
「「TRAPOL」が「k-hack」の先頭を走る見本となれればいい」
そう考えていた。
売上は大事。でもそれよりも大切なのは……
2019年10月、森脇はTRAPOL合同会社の代表になった。
社員は森脇とベトナム国籍のアインさんの2人でのスタート。
ここからは収支計画に対しての結果が求められるようになるため、ランニングコストを抑える必要がある。
最初は小さく始めるしかない。
しかし、ゆくゆくは関西電力グループの事業のひとつの柱と言われるくらい、収益を叩き出すことを目指したい。
そのためには、1年目・2年目に「やるな!」って思わせるくらいの売上をちゃんと出したい。まずは目の前の売上をしっかり積み上げていくことが大切だ。
———とはいえ。
売上はあくまで、やりたいことを実現するための手段にすぎないと考えている。
日本からわざわざ海外の誰かに会いに行って、友達をひとりでも作って帰ってくる人を増やすことこそ、「TRAPOL」の存在意義であり、価値だからだ。
ゆくゆくはベトナムだけではなく、文化や歴史を超えたつながりを様々な国で実現していきたい。
マネタイズはその価値を生み出し続けるための手段。
構想段階からブレていない。
社長が夢を語るのをやめると終わる
森脇はこれまでの日々を振り返り、関西電力だからこそ、現在のチャレンジができていると改めて感じている。
本取材にてビジョンを語る森脇
「k-hack」を立ち上げたのは自分たちではあるが、優秀で意欲ある関西電力の仲間の存在によって、今こうして新しい道が開けた。また、経営層が応援してくれたというのも、推し進めていく上での勇気になった。仲間や応援してくれる人々がいるからこそ、自分が夢を語ることができるのだ。
森脇は「社長が夢を語るのをやめると終わる」そう、考えている。
実践フェーズに入っていくほど、マネタイズや目の前のことに追われがちになるだろう。しかしそれだと小さく収まってしまう。
どんな時でも仲間にビジョンや夢を語り続けられるような社長でありたい。
そのためには、自分を信じることが大切。
人から何を言われようが、どう思われようが、信じ抜いてやり続けたい。
やり続ける人が勝つ、そう信じている。
思いきりアホみたいなことをやってみることが大切
森脇はよく、その発想力や視点の面白さについて尋ねられることがある。
「どうしたらそんなユニークな発想が生まれるのか?」
そんな時は「思いきりアホみたいなことをやってみることが大切」と答えている。
組織の中にいると、変なバイアスや固定概念にとらわれてしまうことが多い。
特に、机上だけで何か計画をしようと思っているときはそうだ。
「もういい大人なんだから」とか、
「こんなことをしたら恥ずかしい」とか、
「自分の肩書きはこうだからこうすべき」とか……、
勝手に可能性の幅を決めてしまっているように思う。
だから一度日常の肩書きを外して、アホみたいなことをやってみるといい。
立場とか年齢とか周りの目を気にしないで、フラットな気持ちで社会を見たらいい。
そうすることで無垢な気持ちで社会と向き合えて、自分のコアな価値観に気づける。
文明社会の中で、忘れ去っている大切な価値に気づけたりもする。
「自分がどういう価値を世の中に出したいか?」
「自分だけが面白がっていることは何か?」
それが見つかったならば、とにかく動いてみて、実践ベースでその価値を深めていったほうがいい。そして、情熱を持てるようであれば、自分を信じて諦めないでやり続ける。続けていくことで実現性を高めることができる、森脇はそう考えている。
エピローグ
———2019年7月。
森脇はプライベートで久々にベトナムのサプライヤーたちに会いに行ってきた。
泥沼の中で魚つかみをするというような、ローカルなアクティビティを共に堪能した。
「やっぱりいいな、こういうの……」
森脇は改めて「TRAPOL」が生み出す価値を確信していた。
「k-hack」で、社内から新規事業を創出するコミュニティを作ったとき同様、これからは世界を舞台に、人と人をつなげていくプラットフォーム作りにチャレンジしていくことになる。
森脇自身、「k-hack」で出会った仲間の存在によって、新たな道を見つけ出したように、「TRAPOL」を通じて知りあった人同士が、国を超えて仲間となり、新たな物語を作っていくことだろう。
ベトナムの仲間との1枚。一番左が森脇
森脇はこれから訪れる未来に大きな夢を抱いている。
今はただ、ワクワクしかない。
完
企画・協力:関西電力株式会社 イノベーションラボ イノベーション推進グループ
Storyteller:小林こず恵