ルポ|関西人の底力【奈良女子大学|京都先端科学大学|ダイキン|森下仁丹】
ACTIVE KANSAI
2022.4.28

ルポ|関西人の底力【奈良女子大学|京都先端科学大学|ダイキン|森下仁丹】

資源小国日本の競争力の源泉は人材。グローバル化、デジタル化の急速な進展など組織を取り巻く環境が大きく変わるなか、人材力強化に向けた具体的なアクションが求められる。競争力を支える人づくり、組織づくりに取り組む関西地域の動きを追った。

奈良女子大学|いでよ!世界を変える工学女子 女子大初の工学部開設

女子大がエンジニアの育成に乗り出した。2022年4月、先陣を切って工学部を開設したのが奈良女子大学だ。産業界などで高まる工学系女性人材の育成要請に応えたもので、工学部進学者における女子の割合が、近年15%程度に上がってきたことも追い風となった。「ICT革命によってソフトウエア中心の情報化社会が進展。重いものを速く動かすといったメカニカルな価値を追い求める時代が終わり、人や社会に寄り添うものを作り出すニーズが出てきた。女性が活躍するフィールドが広がっている」。こう話すのは工学部長に就任した藤田盟児教授。

奈良女子大学

奈良女子大学

他大学との違いを出すために、奈良女子大工学部が注力するのが自立型人材の育成だ。女子学生の多いアメリカの工科大学を参考にユニークなカリキュラムを用意した。1つは自己の強みと弱み、好き嫌い、興味関心などを自覚して自らの未来像を描く「自己プロデュース」、もう1つは社会学、心理学、音楽など工学分野以外の視点で、現在の工学を批判し問題点を見出す「批判的思考」。いずれも自分でやるべきことを見つけ、イノベーションを起こすために欠かせない能力だ。この2つを含む基幹科目以外は、学生自身が興味関心に応じて選択するので、学部の中に決まったコースはない。3年生になると4つ程度のゼミを巡回体験した後、自分に合うゼミに所属して専門分野に取り組む。やりたいことが担当教員の専門以外であれば、他大学や企業から専門家を招聘する協力関係も結んでいる。複数ゼミの掛け持ちもでき、各自の個性に合わせたオリジナルの専門分野を追究していく。

生体医工学(左上)、環境デザイン(右上)、情報工学(左下)、
材料工学(右下)など様々な分野を組み合わせ、キャリアを追究する

これまでの受動型教育に馴れている学生が主体的に選択できるのか、懸念の声もあったが、工学部の教員全員がコーチングスキルを磨き、学生をサポートする体制を整えているという。「開設から4年間が、教育の成否が問われる勝負の期間」と表情を引き締める藤田教授。定員45人の小さな学部から大きく羽ばたく、女子大初の工学者が生まれることが楽しみだ。

藤田盟児
藤田盟児
奈良女子大学教授/工学部長1960年愛媛県生まれ。東京大学大学院工学研究科博士課程修了。
広島国際大学教授などを経て2016年より現職。
22年4月工学部長に就任。

京都先端科学大学|世界水準の「実践力人材」育成
企業人と大学人で挑む大学改革

企業経営者と大学人がタッグを組んだ大学改革も進む。舞台は1969年開学の京都学園大学を前身とする京都先端科学大学だ。2018年に日本電産会長の永守重信氏が理事長に就任、19年の校名変更に伴い、東京大学副学長等を務めた前田正史氏が学長に就任した。永守理事長が掲げる目標は「世界水準の実践力を備えた人材を育てる教育機関」。前田学長は「実践力とは自分のやりたいことを自分で決めて実現する力。社会を生き抜くための実践力をつけて送り出すのが大学の使命」と力を込める。

カリキュラムの特徴は、国際人、社会人としての基礎力を身に付けるリベラルアーツを全学部共通の必修科目としたこと。目玉は、「実践的英語力」と「国際社会人基礎力」。実践的英語力では、英会話学校を運営するベルリッツと共同開発したオリジナルプログラムを取り入れ、英会話やプレゼンテーション力を強化する。国際社会人基礎力では、論文作成等に必要な文章力の強化、現状を正しく認識する科学技術リテラシーなどを学ぶほか、スポーツを通じて主体性や協調性、計画性を養う「スポーツ・ライフスキルプログラム(SLS)」を導入。SLSは言語や文化の違う留学生たちとコミュニケーションを図る場にもなっている。一方で、学部ごとの専門科目は時間数を絞り、基礎的な知識をバランスよく学ぶ。

世界で活躍する力を育む英語教育

スポーツを通じて生きる力を身に付けるSLS

国内企業でのインターンシップ

国内企業でのインターンシップ

企業との連携も進む。インターンシップは1年次から国内企業だけでなく、海外に渡り企業で仕事に取り組むプログラムを用意。社会で働くうえで必要なことと自身のギャップを知り、学習意欲を高めることが狙いだ。工学部で3・4年次に行うキャップストーンプロジェクト*は、企業が抱える課題解決に学生と教員が一緒に取り組み、エンジニアとしてすぐに活動を始められる力を修得する。

就任から3年、「当初は学ぶ姿勢が不足していた学生も、特別講師によるマナー教育等の受講で、ずいぶん変わった」と前田学長。工学部の学生が産業界の登竜門である「未踏IT人材発掘・育成事業*」の1次審査を通過するなど、少しずつ改革の成果が見えてきた。23年3月に京都先端科学大学としての1期生が社会に巣立つ。卒業生の活躍が楽しみだ。

*「キャップストーン」とはピラミッドの頂上に最後に載せる石を指し、学びの総仕上げとして行うプログラム

*「突出したIT人材の発掘と育成」を目的に情報処理推進機構が実施するプロジェクト

前田正史
前田正史
京都先端科学大学学長
東京大学生産技術研究所所長、同大学理事・副学長。2016 年~19 年日本電産生産技術研究所所長を務め、19年4月より現職。
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