現場取材|新たな価値を創造する
かんでん Update
2024.1.09

現場取材|新たな価値を創造する

効率的な充電とコスト抑制を両立するEMS

脱炭素化の流れのなかで導入が進むEV。その取り組みを聞くため、eモビリティ事業グループを訪ねた。

関西電力では、モビリティの電動化に必要な車両・充電インフラ設備など、法人向けにEV導入をサポートするサービスを提供。そのなかで、充電インフラの整備や電気料金上昇を抑えるエネルギーマネジメントシステム(EMS)の開発・普及に注力する。2025年大阪・関西万博では、大阪メトロが導入するEVバス100台分のEMS実証を予定している。

ディーゼルバスをEVバスに転換すると省エネやCO2削減につながるが、数多くのバスを同時に充電するには電気設備や電力系統の増強が必要になり、電気料金の上昇も懸念される。そこで重要になるのが、最適なタイミングで必要な量を充電する「EVバスの運行管理と一体となったEMS」だ。

バス運行に支障のない夜間や昼間の隙間時間に充電を分散。電気料金が大幅に上がらないよう遠隔制御で充電しコストを抑える。

EVバスのEMS自体は完成しており、関西の主要なバス事業者には既に導入されている。現在は、まずは大阪・関西万博での100台の実証に向けて、バス運行管理システム(FMS)と一体化させていく段階だ。

大阪・関西万博におけるEVバスを活用した実証実験の全体像

*1 エネルギーマネジメントシステム 
*2 バス運行管理システム 
*3 走行中給電システム

充電インフラの整備でモビリティの電化に貢献

ソリューション本部 開発部門 eモビリティ事業グループ部長 田口雄一郎

ソリューション本部 開発部門
eモビリティ事業グループ部長 田口雄一郎

「我々はお客さまが少しでも電気料金を抑えられるようコストパフォーマンスを追求しているが、さらにお客さまに役立つには、バスの運行状況や休憩時間などを考慮した最適な充電システムが必要」と話すのはeモビリティ事業グループ部長の田口雄一郎。入社以来、省エネサービスの開発に携わり、2023年7月からeモビリティ関連のサービス開発を担っている。

EVバスは、乗車人数が増えたり渋滞などで頻繁に停止・発進を行うと、電気の使用量が増加。また、電池は充放電を繰り返すと劣化するので、運行状況を予測し、その日に使う分だけ充電するのが望ましい。

「車内のエアコン使用状況等によっても必要な充電量は変わる。100台分の最適な充電量を見極めEMSに組み込むのは難しいが、お客さまのニーズを取り入れたEMSを実現したい。自分が設計したシステムが、EV普及を促進することに、何よりもやりがいを感じる」

万博時には、会場や周辺道路にコイルを埋設し、走行中ワイヤレス給電システムの実証実験も行う。「ワイヤレス給電は、営業所の敷地が狭く多くの充電設備を置くことが難しいバス会社からの期待が高い。実証実験で課題を洗い出し早期に実用化させたい」

関西電力は、EVバスだけでなく水素燃料電池船や空飛ぶクルマの充電設備やシステム開発にも関わっている。

「充電環境が整っていないことがモビリティの電動化を阻む要因の1つ。陸・海・空のモビリティの充電システム開発で電化を加速させ、運輸部門のゼロカーボン化に貢献したい」。田口は力強く結んだ。

ゼロカーボンロードマップ(運輸分野)

2022年3月25日公表資料より抜粋

成長する大規模データセンター事業に参入

関西電力サイラスワン Co-CEO 長瀬隆平

関西電力サイラスワン
Co-CEO 長瀬隆平

デジタル社会の情報インフラを担うサービス・プロバイダーへ。関西電力は2023年5月、米国のデータセンター開発・運用会社サイラスワンとの合弁会社「関西電力サイラスワン」を設立し、ハイパースケールデータセンター(HSDC)事業への参入を発表した。

HSDCとは、グローバルにクラウドサービスを提供する「メガクラウド」と呼ばれる事業者に貸し出す超大規模なデータセンターだ。DXの進展に伴い、クラウドサービスは社会基盤になくてはならない存在になっており、それを支えるHSDCの需要が増大している。

「特に日本のHSDC市場が今後10年間で大きく成長すると予想されることから何としても参入すべきと考えた」。新領域参入の背景を語るのは新会社Co-CEOの長瀬隆平。総合電機メーカーから2019年に関西電力へ転職。インドネシアで火力発電事業を行う合弁会社設立に携わったのち、23年8月に関西電力サイラスワンへ出向した。

両社グループの強みを発揮

デジタル社会を支える基幹インフラへ

2023年5月「関西電力サイラスワン」を設立

2023年5月「関西電力サイラスワン」を設立

「データセンターは現代の重要な社会インフラの1つ。電力という大切なライフラインを預かってきた関西電力のDNAが生かせる事業だ。しかも、関西電力の中核事業であるエネルギー、情報通信、不動産の3つが重なり合う領域でそれぞれのリソースを生かせる」

HSDCは多くのサーバーを収容し稼働させるため、広いスペースと大量の電力を必要とする。1施設あたりの最大受電容量は50MW以上と小規模な発電所1基分にもなる。セキュリティ面から地震や洪水など災害リスクの少ない立地場所を選ぶことも重要だ。関西電力グループは、電力供給やエネルギーコスト削減のノウハウに加えて関電不動産開発は適地調達、オプテージは通信ネットワークの実績を持つ。一方のサイラスワンは、米国に本拠地を置く大手クラウド事業者との取引があり、欧米で多くのHSDCを運用してきた。両社の強みを生かして、HSDCの建設から運用までトータルでサービス提供する。

「言語や商習慣の違いがあり苦労もあるが、関西電力グループの新しい価値を生み出す事業にチャレンジできることが一番の醍醐味」と話す長瀬。海外の先進企業と協業し、グループの力を結集したプロジェクトに携わっているという自負もある。

HSDCは計画から建設、運用まで数年かかることも多く、市場の成長スピードに合わせ複数案件を同時進行する必要がある。関西電力サイラスワンでは、今後10年程度で1兆円以上を投資し、総受電容量900MWの事業規模をめざす。すでに関西で第1号案件の建設地を確保、首都圏でのプロジェクトも進行している。「新規参入事業者としてゼロから作り上げていくなかで、汗をかいた分だけ形になっていくことが嬉しい。節目ごとに小さい成功体験を作り、協力していただいている皆さんの気持ちを引っ張っていきたい」

動き出した関西電力サイラスワン。エネルギー事業で培った信頼性を武器に、デジタル社会を支えていく。

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