ルポ│強みを生かして、関西を成長軌道へ
ACTIVE KANSAI
2024.1.09

ルポ│強みを生かして、関西を成長軌道へ

関西では2024年を前に新時代のプロジェクトが続々始動。
万博に向けた投資も関西経済の追い風となるか——現場を巡った。

利便性向上と経済波及効果で大阪を成長軌道に!
関西の鉄道延伸プロジェクト

大阪の延伸プロジェクト

2024年北大阪急行延伸、大阪メトロ中央線夢洲駅開業、28年大阪メトロ中央線森ノ宮新駅開業、29年大阪モノレール延伸、31年なにわ筋線開業——これらは大阪で進む鉄道延伸プロジェクトだ。続々と進む鉄道延伸、新駅設置の背景には、2015年の近畿地方交通審議会の答申「近畿圏における望ましい交通のあり方」がある。「答申に示された中長期的に望まれる近畿圏の鉄道網の整備が2024年に始まる鉄道延伸プロジェクトだ」と長年交通経済学を研究してきた水谷文俊・都市交通研究所 所長は話す。

夢洲駅予想図(提供:大阪港湾局)

夢洲駅予想図(提供:大阪港湾局)

新たな鉄道インフラの整備で期待されるのは、アフターコロナで再び増加に転じたインバウンドへの好影響をはじめ、歴史・文化資産を持つ関西各地への観光客増加だ。延伸計画のなかでも特に旅行者への好影響が見込まれるのが、2031年に開業するJR西日本と南海電鉄を営業主体とするなにわ筋線。大阪駅(うめきたエリア)とJR難波駅及び南海本線の新今宮駅をつなぐ路線で、キタとミナミの主要ターミナル駅を結ぶだけでなく、阪急電鉄がなにわ筋線へ連結する連絡線整備を発表しており、北は東海道新幹線と接続する新大阪駅、南はJR線・南海線直通で関西空港駅を結び、新大阪~関西空港間を直結する路線になる。「大阪の南北を乗り換えなしで移動でき、利便性は格段に向上する。大阪・関西万博やIR計画による経済波及効果を高めるという点でも鉄道インフラの充実は意義深い」

関西MaaS協議会の資料をもとに作成

但し、「交通網を整備しただけで、経済へ好影響が出るわけではない」と水谷所長は続ける。「企業や商業施設などの立地を促進するとともに、鉄道を軸に、人の流れをどうデザインするか。今後は、DXによる交通サービスの高度化が経済活性化のカギになる」とソフト面の重要性を説く。現在、関西・鉄道7社共同による関西MaaS (Mobility as a Service)構築が進んでおり、第1弾としてルート検索や観光情報を提供するスマートフォンアプリ「KANSAI MaaS」を23年9月にリリース。今後も宿泊施設や飲食店、商業施設などと連携した予約・決済サービスを拡充させ、関西周遊を促進する。関西全域のさらなる活性化につながる鉄道網の整備とサービス強化へ期待が高まる。

水谷 文俊
水谷 文俊
関西鉄道協会 都市交通研究所 所長/神戸大学名誉教授
1957年三重県出身。ハーバード大学大学院博士課程修了(Ph.D.取得)。
神⼾⼤学⼤学院経営学研究科教授を経て現職。公益事業学会会長、⽇本交通学会会⻑、神⼾市交通事業審議会会⻑などを務める。

iPS細胞の実用化をめざす
京都大学iPS細胞研究財団

人体のさまざまな組織に分化するiPS細胞

人体のさまざまな組織に分化するiPS細胞

再生医療用iPS細胞の製造・品質試験を行う細胞調製施設(FiT)

再生医療用iPS細胞の製造・品質試験を行う細胞調製施設(FiT)

2007年京都大学山中伸弥教授らの研究グループが、世界で初めて人間の皮膚細胞からの樹立成功を論文発表した、iPS細胞。2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで知られる革新的な技術が、実用化に向けて大きく動き出している。

iPS細胞は、人のさまざまな組織や臓器の細胞に分化でき、ほぼ無限に増殖する能力をもつ「人工多能性幹細胞」。現在は、難病の患者さんの細胞を再現し薬の開発に利用する創薬分野と、iPS細胞を患者さんの治療に必要な細胞に分化させ移植する再生医療、2つの分野で研究が進んでいる。

iPS細胞を再生医療に活用する場合、拒絶反応を防ぐため、患者さん本人の細胞からつくるのが理想だが、莫大な時間とコストが必要。課題を解決するため、京都大学iPS細胞研究財団を設立し、2020年に活動開始。拒絶反応の起きにくい特定の免疫型を持つドナーの血液から多くの人が利用できるiPS細胞を製造する「iPS細胞ストックプロジェクト」を推進する。細胞調製施設でiPS細胞を作製し、品質試験をクリアした細胞を保存。研究機関や企業の求めに応じて提供しており、神経、網膜、心筋細胞などに関わる10以上のプロジェクトで臨床試験に使われている。

「財団が最適なiPS細胞技術を良心的な価格で企業に提供し、実用化を後押ししたい」と同財団広報グループの和田依美里さん。財団では、これまで提供してきたiPS細胞ストックにゲノム編集を施した医療用の細胞も新たに製造し、2023年6月から提供を開始。「この細胞を使用することで、さらに多くの人にとって拒絶反応が少なくなると期待している。最近は、海外企業からの問い合わせも増えてきた」と和田さん。今後、提供先機関で研究開発を行い、ゲノム編集を施したiPS細胞を用いた再生医療の安全性や有効性に関する確認が進められる。iPS細胞が、医療と産業を飛躍させる——そんな日に期待が膨らむ。

和田 依美里
和田 依美里
京都大学iPS細胞研究財団
企画推進室広報グループ
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