ルポ|地域を守る、防災・減災【近畿地方整備局|気象工学研究所|人と防災未来センター|大阪大学レーザー科学研究所】
ACTIVE KANSAI
2023.8.31

ルポ|地域を守る、防災・減災【近畿地方整備局|気象工学研究所|人と防災未来センター|大阪大学レーザー科学研究所】

人と防災未来センター|震災の教訓と最新の知見で防災力を強化

人と防災未来センター

人と防災未来センター

1995年1月17日未明に発生、6000人以上が犠牲となった阪神・淡路大震災。神戸市中央区のHAT神戸内にある「人と防災未来センター」は、教訓を今に伝え、自然災害の脅威に備える防災拠点として2002年に開設された。

「震災時に救助された方の約8割は、ご家族や近隣住民の手によるものだった。地域防災を担うリーダーを育成し、災害に強い地域づくりに貢献するのがセンターの役割」と、副センター長の後藤隆昭さん。

センターには震災時の写真や被災者の方から寄贈いただいた品など、震災の記憶を今に伝える展示物が並ぶ。自身も国土交通省や内閣府で、東日本大震災や熊本地震などに対応してきた経歴を持つ後藤さんは「単に記録を伝えるだけでは防災につながらない」と話す。そのためセンターでは、国や地方自治体、企業などの具体的な課題解決に役立つ実践的な防災研究を進める。若手が中心となり、数年間研究を遂行。センターでの研究終了後は、大学等で研究を継続。災害発生時には研究者が被災地に出向き、自治体などのサポートを行う。

また、自治体職員を対象にした研修にも力を入れている。災害対策本部や避難所の運営、メディア対応まで多岐にわたる内容で、災害時に対応できる職員を育てている。研修を受けた自治体職員は、全国で1万1000人にのぼり、いざというとき助け合える職員同士のネットワークも生まれている。

阪神・淡路大震災の被害状況を物語る資料が並ぶ

阪神・淡路大震災の被害状況を物語る資料が並ぶ

BOSAIサイエンスフィールドでは最新の防災知識を楽しみながら学べる

BOSAIサイエンスフィールドでは最新の防災知識を楽しみながら学べる

阪神・淡路大震災から28年が経過し、震災を知らない世代も増えてきた。センターでは次世代層への防災教育にも尽力。小中高生や大学生を対象にした防災啓蒙イベントをはじめ、2022年には「防災100年えほんプロジェクト」をスタートさせた。一般の人から防災絵本の原案となる物語を募集、選ばれた5作品を絵本にして世界に発信するプロジェクトだ。プロジェクトを100年継続させ、グリム童話やイソップ物語と肩を並べる寓話にしたいと意欲を見せる。

「南海トラフ地震の懸念が高まるが、日常生活で災害を意識することは少ない。だからこそ年に数回でも自身の防災対策を見直す機会を設けてほしい。当センターもその一翼を担いたい」

後藤隆昭
後藤隆昭
人と防災未来センター
副センター長(2023年6月取材時)
23年7月~復興庁復興知見班参事官

大阪大学レーザー科学研究所|災害避難の新たな形
レーザーで命を守る空中サインシステム

空という誰もが視認しやすい場所に文字や図を描いて、災害時の避難誘導を促す。そんな技術があると聞き、大阪大学レーザー科学研究所の山本和久教授を訪ねた。

夢洲での実証実験で飛行と投影に成功

夢洲での実証実験で
飛行と投影に成功

山本教授が同研究所の石野正人特任教授と開発したのが、レーザーを用いた空中サインシステム。レーザープロジェクターを搭載したドローンとスクリーンを搭載したドローンを同時に飛ばし、空や屋外空間で文字や図柄を投影する。レーザー光源はLEDと比べ10倍以上視認性が高く、夜間だけでなく昼間や霧などが発生した視界不良時にも高い可読性を誇る。また、光線をスクリーン上に走査させ、目の残像を利用して造影させる走査型プロジェクターを採用。レーザービームは広がらないので、プロジェクターとスクリーン間の距離が変わっても常にピントがピタリと合う。風圧の影響を受けにくい透過型スクリーンで風のある屋外でも安定的に投影できるという。

場所を選ばず、必要な場所に臨機応変に投影できる空中サインシステムは、災害時の避難誘導や大規模イベント時の群衆誘導に有効活用できる。また防犯パトロールや山岳遭難救助、海難救助といったシーンでの活用も見据える。

ドローンに搭載した透過型スクリーンとレーザープロジェクターで空中に画や文字を表示する

ドローンに搭載した透過型スクリーンと
レーザープロジェクターで空中に
画や文字を表示する

空中サインシステムは、2022年に夢洲で実証実験を実施。得られたデータをもとに、悪天候に耐えうるスクリーン開発や、昼間でもよりはっきりと見えるシステムの構築に取り組んでいる。「2025年大阪・関西万博での実用化を目指し改良を進めている。将来的には雲に投影する技術の確立も目指したい」と山本教授。

避難誘導に有用性が高く、防犯にも適用できるレーザー空中サインシステム。その技術がいざなうのは「安全・安心な未来社会」だ。

山本和久
山本和久
大阪大学レーザー科学研究所 教授
1959年大阪府生まれ。大阪大学電気工学科卒。パナソニックで光導波路、光デバイスの研究開発、映像・メディア機器へのレーザー応用の研究に従事。2009年大阪大学光科学センターを経て18年より現職。
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