ルポ|地域を守る、防災・減災【近畿地方整備局|気象工学研究所|人と防災未来センター|大阪大学レーザー科学研究所】
ACTIVE KANSAI
2023.8.31

ルポ|地域を守る、防災・減災【近畿地方整備局|気象工学研究所|人と防災未来センター|大阪大学レーザー科学研究所】

近年、日本でも異常気象による災害が毎年のように発生し、大きな被害がもたらされている。激甚化する自然災害から地域を守る具体的な対策が必要だ。関西地域の防災・減災対策の現場を追った。

近畿地方整備局|南海トラフ巨大地震に備える防災・減災対策

TEC-FORCEによる被害状況調査

TEC-FORCEによる被害状況調査

津波浸水想定区域

「SMART ECO TOWN」6つの切り口

出典: 大阪府 津波浸水想定図(H25.8.20)
兵庫県 南海トラフ巨大地震津波浸水想定図(阪神・淡路地域)(H25.12.24)

国の調査では、30年以内の発生確率が70%~80%(2020年1月24日時点)とされる南海トラフ地震。発生すれば、近畿全域を震度6~7の強い揺れが襲い、密集市街地での家屋倒壊・火災、公共交通機関等で発生する重大な事故やコンビナート火災、油流出など深刻な被害が広域に及ぶ。紀伊半島沿岸には10m~20mを超える津波が襲来し、大阪平野に広がる都市部にも到達すると想定される。近畿地方整備局では、「国土交通省南海トラフ巨大地震対策計画」に則り、具体的な防災対策や復旧体制構築を進めている。

5つの深刻な事態

TEC-FORCEによる被害状況調査

南海トラフ巨大地震対策計画 近畿地方地域対策計画をもとに作成

「大切なのは地震に備え訓練すること」と近畿地方整備局・総括防災調整官の中尾 勝さん。津波からの避難困難地域では避難タワー設置の支援、高速道路を避難場所とするための階段設置、道の駅の防災拠点化を推進。また、毎年開催の大規模津波防災総合訓練のほか、自治体や交通機関との連携訓練、局内での対応訓練などを実施。関係者が災害時に備え適切な行動が取れるよう訓練を重ねている。

復旧に向け被害状況を調査

復旧に向け被害状況を調査

復興・復旧には、国土交通省の緊急災害対策派遣隊「TEC-FORCE(テックフォース)」が出向き、被災地を支援する。「職員は、インフラのプロフェッショナル。知識と経験を生かし、技術的な支援ができる」と中尾さん。TEC-FORCEでは、ドローンのほか、車両にカメラとアンテナを設置し、移動中の車両から現場の映像と位置情報が得られるCar-SAT(カーサット)を導入するなど、最新技術を使った情報収集力の強化にも取り組んでいる。建設業界や土木学会、UR都市機構とも災害時の協力協定を締結。「大規模災害への対応は1つの機関で完結できるものではない。今後も連携先の拡大、強化に努めたい」

28年前、当時勤務していた淡路島の洲本市で阪神・淡路大震災に遭遇し、復旧支援に携わったという中尾さん。「当時は災害体制が十分でなかったが、日本の防災対策は大規模災害が起こるたびに進歩している。とはいえ、今後も改善を積み重ね、より高めていく必要がある。日々訓練を重ね、いざという時に備えたい」。自身も経験した巨大地震の教訓を次世代へ引き継ぎ、防災対策の拡充、進化へ——。取り組みは続いていく。

中尾 勝
中尾 勝
国土交通省 近畿地方整備局
総括防災調整官

気象工学研究所|異常気象を予測し、防災に貢献する

気象レーダーで捉えたゲリラ豪雨の様子(提供:情報通信研究機構)

気象レーダーで捉えたゲリラ豪雨の様子(提供:情報通信研究機構)

大阪大学吹田キャンパスに設置された気象レーダー(提供:大阪大学)

大阪大学吹田キャンパスに設置
された気象レーダー
(提供:大阪大学)

気象レーダーのアンテナ部分(提供:東芝)

気象レーダーの
アンテナ部分
(提供:東芝)

「気象予測を通じて社会の安全・安心に貢献したい」と2004年に設立されたのが、気象工学研究所だ。「当時は得られる気象情報が限られ、ダムや河川など近隣に住民のいないローカル地域の気象を予測するサービスはなかった」と、創業者である小久保鉄也社長は振り返る。小久保社長が関西電力在籍時の1995年、黒部ダム管理者が豪雨に巻き込まれ、ヘリコプターで救助される事態が起きた。この出来事が社内ベンチャーとして起業する大きな動機になった。

自然現象はコントロールできない。だからこそ防災・減災につながるシステムを、と京都大学と共同で開発したのが、創業時にリリースし、現在も同社の基盤である「ハイブリッド降雨予測システム」だ。気象予測には、地球を約50㎞四方の格子に分け、格子1つ1つの大気状態をシミュレーションする「気象モデル」が用いられる。同社では気象モデルをもとに、格子を1㎞四方に細分化して分析。そこに雨雲の動きを監視・予測する「レーダー予測」を組み合わせ、ピンポイントに知りたい地域の予測雨量を把握できるシステムを開発。このシステムを応用し、落雷予測や降雪予測システムもリリースした。さらに予測データを気象予報士が分析・判断するサービスも提供。自治体等で利用されている。「的確な予測が防災活動につながり、何も起きないことが最大の評価。陰ながら暮らしを支えていると考えている」と、データ解析やシステム開発に携わる吉田翔さんは話す。

大阪大学が公開・提供している「雨雲どこナビ」も、吉田さんらが開発に携わった。雲の変化を3次元で捉える最先端の気象レーダーを用い、雨雲の発生源を瞬時に察知。30分~1時間後の気象変化を高精度に予測でき、ゲリラ豪雨などの回避につながる。

「最近よく耳にする線状降水帯は、まだ発生過程が明らかになっていない。このレーダーを使えば、メカニズムがわかり予測精度向上につながる可能性がある。防災・減災につながる気象情報の提供で、地域社会の安全に貢献していきたい」と吉田さんは意気込みを語ってくれた。

小久保鉄也
小久保鉄也
気象工学研究所
代表取締役(技術士)
吉田 翔
吉田 翔
気象工学研究所
技術グループ 課長(理学博士)
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