ルポ|地域で進む分散型電源【関電不動産開発|大阪大学|大阪公立大学|カネカ】
ACTIVE KANSAI
2023.5.31

ルポ|地域で進む分散型電源【関電不動産開発|大阪大学|大阪公立大学|カネカ】

大阪公立大学|安全で長寿命、開発進む 「全固体電池」

ノートパソコンやスマートフォン、EV…生活になくてはならない電池。次世代電池として注目が集まっているのが全固体電池だ。

全固体電池の試作品

全固体電池の試作品

現在幅広く利用されているリチウムイオン電池は、液体の有機溶媒を電解質とし、正極と負極の間でイオンを動かし充放電を行う。一方、電解質を固体にしたのが全固体電池だ。大阪公立大学大学院工学研究科の作田 敦准教授らは、長年全固体電池の材料研究に取り組んできた。「固体電解質で電解液を超えるイオン伝導性を達成するのは難しいというのが30年前までの定説だった。日本の研究者が中心となり、固体中にイオンを通しやすい空間を有する、超イオン伝導性素材の研究が進み、全固体電池の研究開発が一気に進んだ」。

大阪公立大学では全固体電池の素材開発が進む

大阪公立大学では全固体電池の素材開発が進む

全固体電池はEVでの活用が見込まれている。理由は温度変化に強く安全で、寿命が長いため。リチウムイオン電池は電解質に可燃性の有機化合物を使っているため、電池の温度が上昇すると最悪の場合、発火するリスクがある。全固体電池は難燃性の固体電解質を使うことで安全性を担保できる。リチウムイオン電池はイオンが移動する際、溶媒も動くので電解質が徐々に劣化するが、全固体電池は電解層をイオンだけが移動するので劣化しにくく長寿命を実現できる。EVを住宅の電源として使うV2H(Vehicle to Home)では、充放電を繰り返し電池の劣化が進むことがネックだが、全固体電池ならそれを解決できる可能性がある。「リチウムイオン電池の寿命は高性能の定置用蓄電池で20〜30年程度。それを大きく上回る、50年ほど使える電池の開発が1つのゴール」

大手自動車メーカー各社はEVへの全固体電池搭載を想定しており、材料メーカー側でも供給体制確立に向けた動きが出始めている。「全固体電池が実用化すれば、EVはもちろん、メンテナンスに赴くのが難しい遠隔地の定置用蓄電池などへの利用も考えられる。宇宙や深海、災害現場といった過酷な温度環境でも活用できる。実用化と並行して、新たな電解質材料の研究も進めており、産官学が連携し、オールジャパンで開発を加速させていきたい」

作田 敦
作田 敦
大阪公立大学大学院工学研究科 准教授
大阪府立大学(現大阪公立大学)大学院工学研究科博士課程修了。産業技術総合研究所研究員などを経て2020年より現職。

カネカ|外壁や窓ガラスと一体化した太陽光発電システム 
発電する建材

外壁や窓ガラスと一体化した太陽光発電システムのイメージ

システム「T-Green🄬 Multi Solar」
意匠性を備えた太陽光発電
*「T-Green」は大成建設の登録商標です。

建物に降り注ぐ太陽光を有効活用できないか。1984年から太陽電池事業に取り組んできたカネカが開発したのが、外壁素材や窓ガラスに太陽光発電システムを組み込んだT-Green🄬 Multi Solarだ。

「建材と一体化させ、建材の代わりに使える太陽電池として開発した。一般的な太陽電池は設置台や施工用金具が必要だが、この製品は通常の建築工法で設置できるのが特徴」と事業開発グループリーダーの中島昭彦さんは説明する。建材としての耐久性・施工性に加え、エネルギー変換効率20%超と高い発電性能を有する太陽電池セルを採用し、30年以上の耐用年数を持つ。蓄電池と組み合わせることで、災害時の非常用電源としてスマートフォンの充電や照明にも利用できる。透過性を確保したシースルータイプ、透過性のないソリッドタイプがあり、シースルータイプは窓やバルコニーに、ソリッドタイプは外壁等と用途に合わせた製品を揃える。「ビルやマンションの屋上には空調設備等があり、太陽光発電パネルを設置できるスペースは限られている。これは外壁面を活用するので、広い面積で十分な発電量を確保できる」

また、西側の壁に設置すれば、夕方にかけての電力需要のピークに合わせて発電できる。自家消費すれば夕方の系統電力の消費抑制につながり、夏場の電力不足緩和に役立ちそうだ。

カネカは兵庫県豊岡市に太陽電池の製造拠点を持ち、セルからモジュールまで自社生産を行っている。T-Green® Multi Solarは2014年から進めてきた大成建設との共同開発によって誕生した。開発にあたっては、建材としての防火性や耐久性を確保するための設計に加え、品質を検証するための耐用試験に苦労した、と中島さんは言う。

T-Green🄬 Multi Solarを窓部に使用したカネカ研修施設(兵庫県芦屋市)

T-Green🄬 Multi Solarを窓部に使用した
カネカ研修施設(兵庫県芦屋市)

「お客さまの利用形態に合わせた多様な製品開発とコストダウンを図り、電力消費を抑制する省エネ技術として、またゼロカーボンの切り札として、国内外に普及させていきたい」。近い将来、太陽電池機能が付いた建材を当たり前のように使う時代が来るかもしれない。

中島昭彦
中島昭彦
カネカ PV & Energy management Solutions Vehicle
BIPV事業開発グループリーダー
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