人間が生きていくうえで不可欠な水。日本は世界でも数少ない水道水をそのまま飲める国だ。詳細はこちら。日本の水道事情について水道マネジメントを研究する近畿大学の浦上拓也教授に話を聞いた。
2021年時点で、日本の水道普及率は約98%。東京、大阪は100%、最も低いのは熊本県の88.8%。とはいえ、インフラ整備が遅れているわけではない。熊本県は地下水に恵まれており、生活用水は家や集合住宅ごとに掘った井戸を使っている世帯が多い。熊本市は浄水場を持たない日本最大都市で、地下からくみ上げた水に水道法で定められた最低限の塩素を加え、各家庭に配水している。一方、例えば大阪府は、高度経済成長期の水需要の増加や水源水質の悪化に対応するため、府を挙げて水道施設整備に取り組み、高い普及率を達成している。
近代水道は1887年横浜市で、川から取水した水をろ過し、圧力をかけて給水したことに始まる。当時、コレラや赤痢といった水系感染症の被害が広がっており、公衆衛生の確保を目的として港湾都市を中心に水道整備が始まった。その後、高度経済成長期の産業発展、生活水準の向上による水需要増加に対応するため、水道整備は急速に進展。1950年に26.9%だった水道普及率は、80年に90%を超えた。
高度経済成長期、経済発展に伴い産業廃水が増加。水源水質の悪化から水道水の臭いが問題視されるようになった。そこで、厚生省(現・厚生労働省)が「おいしい水の供給」をスローガンに、高度浄水処理の導入を推進。現在、ほとんどの浄水場で採用されており、オゾンや活性炭吸着で臭いを除去したおいしい水が届けられている。
日本は水道水の水質基準も厳しく、微生物や化学物質の含有量など安全性を担保する基準だけでなく、味に影響を与えるカルシウムやナトリウムなどの含有量も基準を設定。国が定める水質基準項目は、ペットボトルの39項目を超える51にも及ぶ。
蛇口をひねれば安全でおいしい水が飲める日本だが、人口減少と老朽化により水道事業をめぐる環境は厳しくなっている。
高度経済成長期に敷設された水道管は、更新時期を迎えている。老朽化した水道管は災害に弱く、大規模な断水につながりかねない。しかし、水道管の更新を進めるには莫大な更新費用が必要。現在、人口減少などにより、水道料金収入は減少しており、経営危機に瀕している自治体も。また、若手技術者の減少により技術継承の問題も指摘されている。広域化など時代にあった維持管理の仕組みを整えていく必要がある。