2022年6月、神戸ポートアイランドの「水素CGS(コジェネレーションシステム)実証プラント」で、オーストラリアから輸送した水素が使用された。オーストラリアで水素を製造、液化水素運搬船で輸送し、神戸港のタンクに貯蔵した後、発電を行う一連の流れを実証。水素を「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」というグローバルなサプライチェーンを1つにつなぐモデルケースが示された。
液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
提供:川崎重工業
水素を大量に供給するには、国内製造だけでは難しく、海外から安価な水素を輸入する必要がある。そこで大きな役割を果たすのが液化水素運搬船だ。今回、輸送を担ったのは川崎重工業が製造した世界初の運搬船「すいそ ふろんてぃあ」。水素をマイナス253℃で液化、体積を800分の1にし、75トンの水素を運搬できる。「当社が長年培ったLNG運搬船の技術を生かして製造した運搬船で、9,000km離れた日本とオーストラリア間を、マイナス253℃を保ちながら運ぶという世界初の取組みが成功したことは大きな成果」と川崎重工業の森中絵美さんは話す。
川崎重工業の資料をもとに作成
今後は、実証で得た知見を生かし、グローバルで大規模な水素サプライチェーン構築に取り組む。30年に年間300万トンの水素を導入するという国の計画に貢献するため、1隻で約1万トンの水素を輸送できる運搬船に加え、貯蔵タンクやローディングシステム*等、関連機器の大型化に向け技術開発を進める。「実証時に比べ運搬船は128倍、貯蔵タンクは20倍の大型化を予定。供給体制を整えるとともに、大規模需要が期待される水素発電など、需要側との連携も図っていく」と森中さん。川崎重工業は、水素輸送・貯蔵技術に加え、液化システムや水素ガスタービン、水素エンジン関連技術の開発なども行っており、サプライチェーン全体の技術を1社で手掛ける。水素社会実現へ大きな役割が期待されている。
*液化水素などを船から陸上のタンクに輸送する装置
Atomisは「多孔性配位高分子」に特化した京大発のベンチャー企業だ。多孔性配位高分子は、1997年に京都大学の北川進教授が発見した新素材。1mm3当たり100京個もの穴が開いていて、大量のガスを閉じ込めることができる。「このガス吸着力を利用して開発したのが、100年間変わっていなかったガスの貯蔵・輸送を変える、キューブ状の新しいガス容器CubiTan🄬(キュビタン)。現状の高圧ガス容器と比べ5分の1程度まで軽量・コンパクト化できる」とCEOの浅利大介さんは説明する。
現状の容器は、高さ150cm、幅25cmの円筒で重量は60kg。一方キュビタンは、34cm×27cmのキューブ型で重量12kgとコンパクトながら、同量のガスを圧縮貯蔵できる。キュビタンにはセンサーと通信機能を搭載し、ガスの残量や漏洩を遠隔で管理でき、必要なとき必要な量を配送するサービス構築を目指す。
Atomisの資料をもとに作成
水素を詰めたキュビタンを自宅に備えたり、配送してもらえば、水素ステーションまで行かずとも水素自動車にエネルギーを補給できる。水素ステーション整備には多額のコストがかかり、需要の大きい都市部はともかく、地方でどこまで整備が進むか未知数。「キュビタンは地方での水素活用に有効だ」と浅利さん。一方、再生可能エネルギーの適地は過疎地に多く、再エネで水素をつくり、都市部に運んで活用できれば過疎地の新たなビジネス創出につながる。
実用化に向けて、ガス吸着剤の安全性を確保するためのさまざまな評価のほか、水素自体の吸着力を強める技術的な課題を解決しつつ、「まずは、温暖化の要因になり放出量削減が急がれるメタンガス用キュビタンを確実に実用化し、得られた知見を生かして水素用キュビタン開発に挑みたい」と浅利さん。2023年3月、神戸ポートアイランドに工場を建設し、キュビタンに搭載するガス吸着材の本格的な生産体制を整える。水素燃料をキュビタンで売り買いする日が楽しみだ。