ルポ|次世代エネルギー水素 関西最前線【神戸・関西圏水素利活用協議会|三菱重工業|川崎重工業|Atomis】
ACTIVE KANSAI
2022.9.30

ルポ|次世代エネルギー水素 関西最前線【神戸・関西圏水素利活用協議会|三菱重工業|川崎重工業|Atomis】

さまざまな資源から製造でき、使用してもCO2を排出しない次世代エネルギーとして期待される水素。本格利用するには、サプライチェーン構築が欠かせない。水素社会の実現に向け、官民でさまざまな取組みが進むなか、関西地域の動きを追った。

神戸・関西圏水素利活用協議会|2030年に大規模商用化を目指す クリーンエネルギー水素

神戸市の液化水素荷役ターミナル
提供:川崎重工業

利用時にCO2を排出しないクリーンエネルギーとして期待が高まる水素。日本政府は2030年に年間導入量300万トン、50年には2,000万トンと意欲的な目標を掲げる。

神戸・関西圏における水素プロジェクト例

経済産業省の資料をもとに作成

こうした流れのなか、20年8月に発足したのが、関西における水素の利活用を促進する神戸・関西圏水素利活用協議会だ。参加企業は13社、オブザーバーとして、経済産業省、国土交通省、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)、神戸市が参画。水素の製造・輸送・貯蔵・利活用に関わる多彩な企業が集まる。「関西地域は世界初の液化水素運搬船や液化水素荷役ターミナルの構築など、世界に先駆けた水素に関する取組み・実証が進む地域。企業間の連携を進め、水素社会実現に向けた道筋をつけるのが協議会の役割だ」と事務局の溝口典仁さん(岩谷産業)は話す。

協議会がまとめた将来ビジョンでは、25年頃から水素発電実証や水素サプライチェーン構築実証を進め、30年頃から発電や産業利用を中心に需要を拡大させ、大規模商用化を目指す。なかでも大きな需要が見込まれるのが水素発電だ。他の燃料との混焼実証から専焼実証へ進み、30年頃商用化されるシナリオを描く。さらに、自動車・フォークリフト・トラックなどのモビリティ、製油・化学・製鉄など産業分野での利用を見込んでいる。

国内初の商用水素ステーション「水素ステーション尼崎」

国内初の商用水素ステーション「水素ステーション尼崎」
提供:岩谷産業

需要拡大とあわせて、供給を担う水素サプライチェーンの整備と運用も図っていく。調達は、海外の安価な水素が中心となる。海外で製造した水素を液化し、日本へ運搬。荷揚基地のタンクに貯蔵し、パイプラインやローリーで水素ステーションや発電所などに供給する。一方、国内では、余剰再エネ等を活用した水素製造の実証や高温ガス炉等の高温熱源を活用した水素製造技術の研究開発などが進む。

国は、水素コストを現在の100円/Nm3から30年頃に30円/Nm3、50年には20円/Nm3以下と化石燃料価格と遜色のない水準まで低減させることを目指している。コストを下げるには大規模な需要創出と供給を支えるサプライチェーン構築が不可欠だ。

「水素は多様な資源から製造でき、調達先を多角化すれば、エネルギー安全保障にもつながる。水素が当たり前に利用される社会を目指し、関西から盛り上げていきたい」と溝口さんは力を込めた。

*グリーン成長戦略におけるコスト目標より。

関西圏の将来ビジョン

神戸・関西圏水素利活用協議会レポートをもとに作成

溝口典仁
溝口典仁
神戸・関西圏水素利活用協議会 事務局
岩谷産業 水素本部
水素バリューチーム マネージャー

三菱重工業|製造から発電までの技術を一貫して検証する
「高砂水素パーク」

提供:三菱重工業

水素利活用のなかでも大きな需要が見込まれている水素発電。三菱重工業は水素ガスタービンの早期商用化に向け、高砂製作所(兵庫県高砂市)内に、水素発電実証設備「高砂水素パーク」の整備を進めている。既設の発電用実証設備に隣接するエリアに水素製造設備と貯蔵設備を新設し、水素製造から発電までの技術を一貫して検証する取組みは世界初だ。

高砂製作所では、水素ガスタービンの心臓部とも言える燃焼器の開発を行っており、2025年度に大型ガスタービンで30%混焼、中小型では100%専焼の商品化を目指す。

既に燃焼器の開発から実証までの体制を構築している高砂製作所で、水素製造から発電までの検証を行う価値は何なのか——「もともとは水素を購入し、実証する予定だった。しかし大型ガスタービンでの水素発電には30%混焼でも1時間あたり3トンもの水素が必要で、大規模な製造施設やパイプラインがなければ実現しない。水素製造面でも最新技術を実証し、多様な製造方法に対応できる体制を整える必要がある」と田中克則所長。高砂水素パークでは、23年度に水を電気分解して水素をつくる水電解装置を導入するほか、メタンの熱分解による水素製造など、最新技術の実証を順次行う。また、発電設備に供給する配管も整備し、製造から発電まで一連の流れを検証する。

「猛暑や集中豪雨など最近の気候状況を見ると、温暖化問題をより実感するようになった。次の世代によい環境を残すため、今やるべきことを確実に進めていきたい」。孫のためにもという田中所長の言葉は切実だ。火力発電の脱炭素化に向けた役割も期待される水素発電。その動きが加速している。

*燃料と圧縮空気を混合し着火・燃焼させることにより、ガスタービンを回転させるための高温高圧ガスを発生させる装置

提供:三菱重工業

田中克則
田中克則
三菱重工業 高砂製作所長
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