2025年大阪・関西万博のプロデューサーを務めるロボット工学者で、大阪大学大学院の石黒浩教授に万博開催の意義とアバター社会実現の可能性について聞いた。
提供:2025年日本国際博覧会協会
常に比べられるのは50年前の万博。70年の大阪万博は人間が安全、安心、快適に生きるための科学技術を皆で共有しようとした。日本も50年前は経済発展を目指しながら、高度に発達した科学技術が描く未来に思いを馳せた。
それが50年たって、もう十分に科学技術は発達し、快適さを追い求めるだけでなく人間とは何か、社会とは何かを考えながら、それぞれの価値観で進化していく時代に入っている。万博では、多様な価値観と幸福感で生きる未来を見せ、イメージを共有し、議論し、明示的にメッセージとして後世に伝えるのが重要な役割だと思っている。
また、万博は新型コロナウイルス後、最大のイベントになる。新型コロナウイルスが拡大するような状況になっても、人々が集い、議論しあえるイベントにする必要がある。そのために、実空間だけでなく、仮想空間をつくり、そこに遠隔操作のアバターロボットやCGで世界中の人に参加してもらい、議論できる万博にしていく。VR技術を活用すれば世界中の人が自国にいながら万博を体験できるし、万博会場にいるアバターと接続すれば、実際にその場にいるような感覚を得ることができる。実空間と仮想空間がミックスした体験を提供していきたい。
8人のプロデューサーの中で私のやることは「いのちを拡げる」こと。間違いなくいえることは、人間は科学技術によって進化してきた、能力を拡張してきたということ。
今後科学技術で人間はどう進化していくのか、を見せるのが私の役割で、それを「いのちを拡げる」と言っている。
具体的には、30年から50年先の科学技術に支えられた暮らしをドラマ仕立てで見せていく。そこには、アバターとして働いている人もいれば、生身の身体で働いている人、自立型のロボットもいる。演出家や音楽家、芸術家、企業や学校ともコラボしながら一緒に創り上げていく予定だ。
Geminoid™F:大阪大学と国際電気通信基礎技術研究所(ATR)石黒浩特別研究所による共同開発
万博の先に、「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」がある。内閣府が2050年を目指して、アバターを使って、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現しようと研究を進めている。アバターを使えば、現場に行かなくてもさまざまな社会活動に参加することができる。例えば、学校の先生はアバターとして家庭教師に来てくれるし、新型コロナウイルスに罹ったとなれば、病院に行くよりもアバターの医師が家に往診してくれた方が安心だ。議論をする場合もアバターで世界中の人と議論ができる。アバター社会が実現すれば働き方や暮らしは大きく変わる。
アバターを使って働くとなれば、ロボット技術が不可欠。日本のロボット技術は世界と比べても高い。日本企業は高性能の製品を安定して量産することが得意なので、日本の技術が世界に広がる大きなチャンスと考えている。
ERICA:ERATO 石黒共生ヒューマンロボット
インタラクションプロジェクト,ATR開発
10年前にもアバターブームが来たが、定着しなかった。
なぜなら「働く」ことは「出社する」ことと同じだと考えられていたからである。女性の管理職で子育てをしている人がアバターで働こうとすれば、会社に来ない人がマネジメントできるのか、と言われて終わっていた。
しかし、新型コロナウイルスの拡大で働き方は大きく変わった。オンラインで大抵のことが実現でき、ビジネスチャンスがあることに多くの人が気づいたので、今回は定着すると思う。
「多様化」です。皆で便利で快適な暮らしを目指した昔とは違う。自然の中で生きたいという人もいれば、科学技術を感じさせる無機質な空間で生きたいという人もいる。一人で生きたい人もいれば、いろんな人とつながりたい人もいる。いろんな選択肢があり、いろんな幸福感がある。万博では多様な価値観と幸福感で生きる未来を見せていく。未来はこうなる、と1つの世界しかなければ、適応できる人はいいが、そうでない人は不幸になる。もうそんな時代ではない。どんな人でも一緒に生きていける世界は多様な世界でしかありえない。多様性をつぶさない社会を創り上げていくにはどうするか、万博で議論を進めたい。