ルポ|GXの現在地
ACTIVE JAPAN
2025.7.31

ルポ|GXの現在地

エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を同時に実現すべく、GX2040ビジョンが2025年2月に閣議決定。GX実現に向けた方向性が示されたが、実践するのは現場。GX推進に取り組む企業を訪ねた。

甲子園球場をECOの発信地に、実質再エネ100%へ

球場内照明のLED化を推進 提供:阪神甲子園球場球場内照明のLED化を推進 提供:阪神甲子園球場

プロ野球1試合4万人の来場者数を誇る、阪神甲子園球場。野球の聖地が25年3月、球場内の電力を実質再エネ100%に切り替えた。

「スタジアムの再エネ100%の取り組みは全国初」と話すのは球場長代理の重森弘毅さん。取り組みにあたり、阪神電鉄と大和ハウス工業、関西電力がコーポレートPPA(電力購入契約)を締結し、大和ハウスが開発・運用する太陽光発電設備で発電した電気を、甲子園球場で使用する。その他、球場の銀傘に設置している太陽光発電等を含め、実質再エネ100%の電力で球場を運営する。これにより年間約3,000トンのCO2削減効果を見込んでいる。

  • * 関西電力の2023年度温室効果ガス排出量排出係数から算出
KOSHIEN “eco” Challenge

阪神甲子園球場では、2021年12月に環境保全プロジェクト「KOSHIEN “eco” Challenge」をスタートさせており、再エネ100%もその一環だ。「KOSHIEN “eco”Challengeを宣言する前から、雨水・井戸水の利用、ツタの壁面緑化、銀傘への太陽光パネル設置やプラスチックカップのリサイクルなどに取り組んでいたが、プロジェクト開始以降、さらに環境にやさしい球場をめざし、活動を加速させている」と重森さん。KOSHIEN“eco” Challengeでは、再エネ活用、CO2排出量削減に加え、プラスチックゴミの削減・リサイクル推進も重要なテーマだ。現在プラカップのリサイクル率は40%を超え、さらなる推進に向けて回収ボックスの増設や啓蒙活動を行っている。

球場敷地内の井戸水や雨水をグラウンドへの散水に使用 提供:阪神甲子園球場

球場敷地内の井戸水や雨水を
グラウンドへの散水に使用
提供:阪神甲子園球場

球場内に設置されたプラカップ回収ボックス

球場内に設置された
プラカップ回収ボックス

甲子園名物のツタはヒートアイランド現象の緩和や空調効率の改善につながる

甲子園名物のツタはヒートアイランド
現象の緩和や空調効率の改善につながる
提供:阪神甲子園球場

25年2月には、球場から出る使用済み食用油を航空燃料SAF(Sustainable Aviation Fuel)の原料として供給することを決め、資源の有効活用を通じた気候変動対策に取り組む。「KOSHIEN “eco” Challengeを球場だけで完結させるのではなく、関係企業・団体と協力し取り組みを広げていきたい。そのためにも、もっと活動内容を知ってもらう必要がある。あらゆる機会を利用して甲子園球場をECOの発信地にしていきたい」と重森さん。環境意識醸成の場としても期待したい。

重森弘毅
重森弘毅 しげもり ひろき
阪神甲子園球場 球場長代理

空の脱炭素化へ、小型で3人乗りを実現した空飛ぶクルマ

大阪・関西万博でフルスケールモックを公開 ©SkyDrive
大阪・関西万博でフルスケールモックを公開 ©SkyDrive

次世代モビリティとして期待が高まる空飛ぶクルマ。滑走路不要のため、自動車のように日常的に使える空のモビリティとして活躍するだけでなく、空の脱炭素化への貢献も大きい。世界で開発が進むなか、SkyDrive社が手掛けるのが小型の空飛ぶクルマだ。原材料の精製から廃棄されるまでのライフサイクルCO2排出量はヘリコプターの約1/80程度*。飛行には電気を使うのでCO2を排出しない。

空飛ぶクルマの特徴

「自動車メーカーに勤務していた時、仲間が集まって“わくわくするモビリティをつくりたい”とブレストを重ねたなかで一番心躍るものが空飛ぶクルマだった」SkyDrive代表取締役CEOの福澤知浩さんは開発のきっかけをこう話す。2018年に会社を設立し、製品化に向けた開発スピードを加速させた。

大阪・関西万博でのデモ飛行 ©SkyDrive

©SkyDrive

大阪・関西万博でのデモ飛行 ©SkyDrive

大阪・関西万博でのデモ飛行 ©SkyDrive

ラジコンに詳しいメンバーを中心に試作機を作ったものの、航空機としての安全性を担保するには数値的な検証や専門知識をもとにした安全性証明が不可欠だ。日本の航空機開発は、大企業による機体部品製造に留まっており、エンジン等は国際共同開発がメイン。福澤さんは、弱い部分を補うため海外の技術者と一緒に開発を進める。「安全管理やリスク負担についての考え方が異なる海外メンバーとの協働はチャレンジだった」と開発の苦労を振り返る。

SkyDrive社はコンパクトで軽量の空飛ぶクルマのなかで、世界唯一*の3人乗りに挑戦。ベストなプロペラ配置に加え、プロペラを支えるアームの形状を工夫し、エネルギー効率のよい機体を完成させた。空からの景色を楽しんでもらえるよう窓を大きくとり、内装にもこだわった。短時間での移動が可能な空飛ぶクルマは、観光だけでなく防災や医療面での活躍も期待されている。「まずは万博で多くの人に認知され、乗ってみたいと思ってもらい、気軽にフライトを楽しむ世界を実現したい」

  • * SkyDrive社調べ
福澤知浩
福澤知浩 ふくざわ ともひろ
SkyDrive 代表取締役 CEO
東京大学工学部卒業後、トヨタ自動車入社。
2017年に経営コンサルティングを手掛ける福澤商店を設立。
2018年にSkyDriveを創業、代表に就任。
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