
Source Galileo Norge AS Commercial Manager
高山昌吉
関西電力が2023年8月に参画したノルウェーの浮体式洋上風力発電事業。出力1.5万kWの風車を備えた浮体設備5基を設置し、28年中の営業運転開始を予定している。浮体式洋上風力発電は、海に浮かべた構造物に風車を設置して発電するしくみで、海底に固定する着床式とは異なり水深が深い海でも設備を設置できる。
「日本と同様、沖合に出ると急激に水深が深くなるノルウェー近海での商業用実証に携わることで、課題と対策、さらには開発・建設に関するさまざまな知見獲得が期待できる。投資リスクはあるが、早い段階から開発に参画することで得られる経済的・戦略的メリットは大きい」と話すのは、24年3月からノルウェーに派遣された国際事業本部の高山昌吉だ。
ノルウェーの浮体式洋上風力発電所(完成イメージ)。
発電した電気は浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備で使用する
日本では再生可能エネルギーの切り札として2030年頃から浮体式洋上風力が急拡大すると見られる。高山は現地プロジェクトチームの一員として事業成功に貢献するだけでなく、プロジェクトで得た知見・経験を国内事業に生かすことが期待されている。
国際事業のミッションは収益性の高い案件に出資し関西電力の収益に貢献すること。「本プロジェクトの海域では年間を通じて安定した風況が見込まれ、十分な発電量が期待できる。第三者との長期売電契約(PPA)の締結を予定しており、安定かつ高い収益性が見込めると判断した」
ノルウェー現地スタッフと打ち合わせする高山昌吉
ラオスの水力発電開発や海外電力市場調査、事業投資検討の経験を持つ高山は、プロジェクトファイナンスの調達をはじめさまざまな契約交渉を担当する。
浮体式洋上風力発電は、世界的に見ても商業規模での操業実績が少ない新しい分野だ。そのため、貸し手である銀行等との交渉は事業を進めるうえで重要な業務であり、パートナーからの期待も大きい。「万一の不具合発生時や未然防止のためにどうするのかといった問いに対し、技術部門と協力して対応を考える必要がある。契約面におけるリスクを最小限に抑える工夫と、リスクをカバーする適切な損害保険の調達に向けて取り組んでいる」と高山。
世界的なサプライチェーンひっ迫の影響もあり、事業推進の苦労は並大抵ではないが、24年3月にはノルウェー政府から日本円換算で約280億円の補助金も獲得。ノルウェー国内では、同国における商業用浮体式洋上風力の第1号案件ということで、技術やコスト、調達面の工夫に対する官民関係者の関心度が高く、メディアに取り上げられることも多いという。北欧で始まったばかりの関西電力の浮体式洋上風力発電事業──高山の奮闘は続く。
関電トレーディングシンガポール
Deputy General Manager,
Corporate Strategy and planning
奥野雄平
「我々の役割の1つはLNGの需給変動に合わせた機動的な燃料売買、もう1つは収益力強化を図ること。これまでは燃料の安定調達で関西電力を支えることが主たるミッションだったが、これからはトレーディングによる収益力強化が求められる」。こう話すのはエネルギー需給本部から出向し、関電トレーディングシンガポールで経営戦略策定を担う奥野雄平だ。
関西電力の火力発電所で使用されるLNGの所要量は、天候の変化や再生可能エネルギーの導入拡大などさまざまな要因により目まぐるしく変化する。それらに対応するためには、契約形態や調達先の多様化に加え、需給変動の調整弁として燃料トレーディングの重要性が増している。そこで、アジアのLNG取引の中心地であるシンガポールで取引先との交渉を代行するエージェントとして、2017年に設置されたのが関電トレーディングシンガポールだ。同社は23年7月に体制を拡大し、トレーディング体制のシンガポール本拠地化とともに、自ら取引を行う主体に生まれ変わった。23年9月にはロンドン支社を設置し、LNGビジネスのさらなる拡大をめざしている。
ロンドン支社 General Manager 礒崎龍造
事業拡大の背景には、ロシアのウクライナ侵攻などによる燃料調達をめぐる世界的な環境変化がある。「エネルギー危機下にある欧州ではスポット取引が多く、LNGの価格変動が大きくなっている。我々が保有する長期契約や輸送船などのLNGサプライチェーンの余力をうまく活用することで、収益を生み出せる可能性がある」と分析するのは、同社ロンドン支社でトレーディングを担当する礒崎龍造だ。脱炭素化を進める欧州だが、水素やアンモニア発電が実用化するのは2030年以降と考えられる。それまでの橋渡し的な燃料としてLNGの需要は高い。今後電力需要の増加が見込まれるアジア・アフリカでは、石炭からLNGへの転換が進むと予想されている。
関電トレーディングシンガポールでは、現地社員の採用を拡大し、会社の成長に向けた取り組みを進めている
関西電力が拠点を置くシンガポールやロンドンには燃料トレーディングの人材が集積し、即戦力を採用できる利点がある。スタッフ20人超を数え、関西電力の海外グループ会社では最大規模となる。「これまでは関西電力のエージェントという位置づけだったが、今後は自立してトレーディングで収益力を強化する必要がある。現地採用社員とともに事業拡大・会社の成長に向けて取り組んでいきたい」と奥野。事業を軌道に乗せ、競争力強化に向けて短期・中期LNG契約のほか、脱炭素ビジネスなど取引のラインアップを充実させていきたい、と意気込む。
礒崎は、欧州市場でのLNG取引拡大に向けた市場分析に取り組んでいる。欧州各国ではそれぞれ価格設定や電源構成が異なり、パイプラインはつながっていても国境で供給が制限されるケースもある。「まず市場構造を分析したうえで各国の電力・ガス会社のニーズを把握し、我々のニーズとマッチングさせていく。現地に足を運び、顔の見える付き合いで信頼関係を築き、ネットワークを拡大させたい」
海外の電力業界では関西電力の供給安定性・信頼性に対する評価が高い。燃料トレーディングでもグローバルなエネルギー供給に貢献すべく、新たな挑戦が始まっている。