国際都市神戸発のスポーツブランド、歴史ある京都の伝統産業と先端技術、大阪から世界へ羽ばたく人材育成──独自の魅力を磨き、世界で存在感を発揮する関西の現場を巡った。
1949年スポーツシューズメーカーとして神戸に誕生したアシックス。現在は売上の約8割を海外市場が占めるグローバルカンパニーだ。2026年までの中期経営計画では「No.1パフォーマンスランニングフットウエアブランドになる」を成長戦略の1つに定め、日米欧でランニングシューズシェア1位獲得をめざす。日本では26%から33%へとシェアを伸ばしNo.1を奪還、欧州では25%から29%へシェアを伸ばしNo.1維持、北米では現状の9%から25%へ急拡大、と意欲的な目標を掲げている。
箱根駅伝やオリンピック選考レースなどで存在感が増すアシックス。トップアスリートから選ばれることが市場拡大の決め手なのか──「ブランドの認知度向上には有効だが、アスリートの選択がそのまま市場に反映されるわけではなく、市場ごとに戦略は異なる」とランニングフットウエアを統括する森安健太さんは話す。ランニングの楽しみ方はさまざまあり、自己ベストを更新したい、長くゆっくり走りたい、短い時間で思い切って走りたい、グループで走りたい、自然の中で走りたいなど、お客さまのニーズに応える必要があるため、多様な高付加価値商品を揃える。
ランニングエコシステムの拡充
欧州では、ロードでのランニングに加え、未舗装路を走るトレイルランニングも定着。フランスやドイツなどマーケット毎に異なるニーズにも適した多様な商品を揃えるとともに、ランニングエコシステムを通じお客さまとの繋がりを深め、ブランド体験価値を高めている。北米でのシェア拡大には、ブランドの認知度向上が急務。デジタルマーケティングに加え、ランナーに専門的なアドバイスをするランニング専門店との関係を強化し、ランニングイベントでの試し履きなども積極的に開催しお客さまとの接点を増やしている。日本では、まずはレーシングシューズを中心とした競技者層でのマーケットシェア奪還に向け、パフォーマンスにこだわった革新的な商品の開発とそのラインナップを強化していく。
デジタル戦略も加速。アシックスでは2019年カナダのレース登録プラットフォーム会社の買収を皮切りに、21年にはオーストラリア、22年には日本と欧州の企業を傘下に入れた。世界各国のプラットフォームとアシックスデジタルサービス「OneASICS*」を連携させ、お客さまとの直接的な接点を増やすことで、繋がりを深め、お客さまに適したサービスや付加価値の高い商品を提供し、ブランドの体験価値を高めていく。
「ランニングフットウェアマーケットは新興メーカーの存在感も増しており、競争が激化しているため、ポジション獲得は簡単ではない」と森安さん。No.1奪取に向けアシックスは走り続ける。
SAKEを世界へ──月桂冠は海外生産と輸出の両輪で日本酒のグローバル展開を加速させている。月桂冠が本格的に海外に進出したのは1989年。カリフォルニア州に米国月桂冠を設立し、酒造りの肝である水と米を現地調達して、生産を始めたことが始まりだ。日本とは異なる原料、カリフォルニアでの酒づくりは、試行錯誤の連続だった。現在、米国月桂冠で醸造した清酒はアメリカだけでなく、カナダにも出荷している。2011年には中国に販売会社を設立。アジア市場、欧州市場へは、日本からの輸出で市場拡大に力を注ぐ。
月桂冠がめざすのは、競争力のある価格を実現し、海外でも日常的に日本酒を楽しんでもらうこと。都市部の和食料理店などに加え、米国では日系だけでなく現地系スーパーマーケットにも他社に先駆けて商品を置いた。「販売代理店の協力もあるが、現地のスーパーに足を運び、川下から販路を広げていく地道な営業も行っている」と貿易部長の横林俊樹さんは話す。
消費者へのプロモーションにも力を入れる。海外では、和食をきっかけにSAKEに興味を持つ人が多く、現地食材とのペアリングを提案。フランスでは、牡蠣と大吟醸とのペアリングを楽しむイベントも行った。国内では、インバウンド向けに空港で試飲会を実施するなど、日本酒との接点を増やすべく積極的に仕掛ける。
近年は、日本酒が海外で大人気という報道が目につくが、横林さんは現実とは乖離があるという。「伸びているのは間違いないが、ワインのわずか2%ほどの市場規模でまだまだ。日本ではワインが一般的になり、居酒屋でも提供される。同じように海外の飲食店で当たり前に日本酒がラインナップされることが目標だ」
古くは明治35(1902)年にハワイへ清酒を輸出した月桂冠。今でこそ、多くの蔵元が海外に進出しているが、月桂冠は120年以上前から海外市場を開拓してきた自負がある。いつでもどこでも気軽に楽しんでもらえる日本酒をめざし、月桂冠は歩み続ける。