
山地 では、持続可能な社会像と実現方策をどう考えるか。私が思い描く社会は、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合する「ソサエティ5.0」、超スマート社会。私、あれを聞いたとき、いいなと。必要な人に必要なとき、必要なだけモノ・サービスを提供する、究極の省エネ社会です。
村尾 思うに今の社会は、民主主義も市場経済も、長期利益より短期利益、集団利益より個別利益を優先しがち。だけど、持続可能な社会には、短期利益より長期利益、個別利益より集団利益が重要ではないか。
私は以前、財務省にいましたが、日本財政は持続可能じゃない。今の世の中、お札をどんどん刷ればいいような風潮があるが、それでいいのか。財政再建については冷静な議論が必要です。エネルギー分野でも、真実はこうだが、世間の空気の中では言いづらいといったことが、特に原子力にはあるのでは。それを皆さんに納得いただけるよう伝えることが必要。日本はゼロか100か、白か黒かの議論が多いが、真実はグレーの濃淡の中にある。グレーの濃淡という微妙な問題を説明できないと、意図は正しく伝わらない。
山地 そうですね。黒か白かというのはわかりやすくインパクトがある。特に、マスコミはそういう感じですが、大事なのはグレーの部分。グリーン成長戦略も実は移行期が大事。世界で廃止を迫られている石炭火力は、途上国の主力電源。最終的には非化石化するにしても、移行期の取扱いが重要です。
村尾 メディア側から言えば、例えば「NEWS ZERO」という1時間の番組中、私が喋る実質的な時間は平均2〜3分。その時間で、今日1日に起きた日本・世界の森羅万象のうち何を取り上げ、何を言うかとなると、多分に誤解を招きがちな端的な言葉になってしまう。それはテレビの宿命だけど、新聞等で補うルートができていない。温暖化にしても原子力にしても、そのリアルを若い人に伝えるコミュニケーション技術が未熟です。
山地 そろそろエネルギー事業者、関西電力への提言をお願いします。
村尾 日本で原子力を進める際、信頼関係の醸成は欠かせない。私も公務員時代に地方自治体で働いたとき、カラ出張による裏金づくりが発覚。私はその処理担当になり、住民の信頼を保つには透明性しかないと痛感した。原子力も、ハードの安全性もさることながら、ソフト・組織の透明性も重要。トラブルがあった時、隠さずオープンにしたほうが、信頼につながる。
山地 私の提言は、電力会社は地域独占の公益事業として、安定供給を使命にしてきたが、電力システム改革が進むなか、「もっとチャレンジしてほしい」ということ。ガス事業をはじめ電力会社が持つデータやネットワーク、地域との関係等の資産を生かせば、多様な社会インフラビジネスを展開できる。公益事業の精神は維持しつつ、公益性と企業性をバランスよく発揮していただきたい。
村尾 地球温暖化など公益的な課題が広がるなか、公益事業者の立場から、ぜひ長期的観点、集団的利益を踏まえて、言いにくいこと、世の中に波紋を投げかけるようなことも、正々堂々と発言してほしいですね。
山地 関西電力は日本の原子力のパイオニア。それだけに、ゼロカーボンに向け、小型炉などにも挑戦してほしい。ありがとうございました。