プレスリリース

2008年9月26日
関西電力株式会社

大飯発電所3号機の定期検査状況について(原子炉容器Aループ出口管台溶接部の傷の原因と対策)

 大飯発電所3号機(加圧水型軽水炉 定格電気出力118万キロワット、定格熱出力342万3千キロワット)は、第13回定期検査中であり、国内外で発生した600系ニッケル基合金溶接部での応力腐食割れ事象を踏まえ、原子炉容器出入口管台(計8箇所)の溶接部にウォータージェットピーニング工事※1を実施する計画としていました。
 この工事のため、3月6日から3月10日にかけて、事前に当該溶接部内面の渦流探傷試験(ECT)※2を行ったところ、Aループ出口管台の600系ニッケル基合金溶接部1箇所で有意な信号指示(長さ約10mm)を確認しました。なお、Aループ入口管台およびB、C、D各ループの出入口管台については、有意な信号指示は認められませんでした。
 傷の形状は複数に折れ曲がるとともに枝分かれした割れで、1次冷却材環境下における応力腐食割れ※3の特徴を有しており、周辺に、引張応力が残留する可能性がある機械加工※4跡を確認しました。これらのことから、1次冷却材環境下における応力腐食割れの可能性が高いと推定しました。
 超音波探傷試験(UT)※5を行った結果、傷の深さは特定できず、4月22日より当該部表面の研削を開始しましたが、約3.6mm研削した時点で傷が消えず、さらに研削した場合、工事計画認可申請書※6に記載している板厚(70mm)を下回る可能性があったことから、記載板厚を、傷を含めた幅約11cmの部分について全周にわたり70mmから64mmに変更しました(なお元の板厚は約74.6mm)。その後、約10.5mmまで研削しましたが、傷は消えませんでした(この時点の板厚約64.1mm)。
 さらに深く研削を行うため、7月30日に、工事計画認可申請書の記載板厚を、傷を含めた箱状(軸方向の幅約11cm、周方向の幅約13cm)の部分のみ64mmから53mmに、その他の部分を70mmに変更する手続きを行い、強度上の問題がないことを国にもご確認頂いた上で、8月8日に研削を再開しました。
 8月23日、深さ約20.3mm(当該部分の板厚約54.3mm)まで研削した結果、外観目視観察で傷が認められず、渦流探傷試験でも有意な信号指示が確認されなくなりました。さらに念のため追加研削(約0.7mm)を行い、傷がないことを確認しました(当該部分の板厚約53.6mm)。
 本事象による周辺環境への影響はありません。

平成20年4月17日5月16日5月26日6月16日7月16日8月8日8月15日8月27日お知らせ済み]

  ※1: ウォータージェットピーニング工事
金属表面に高圧ジェット水を吹き付けることにより、金属表面の引張残留応力を圧縮応力に変化させる。
  ※2: 渦流探傷試験(ECT)
高周波電流を流したコイルを対象となる配管等に接近させることで対象物に渦電流を発生させ、対象物の欠陥に起こった渦電流の変化を電気信号として取り出すことで欠陥を検出する試験。
  ※3: 1次冷却材環境下における応力腐食割れ
1次冷却材環境下で600系ニッケル基合金に発生するPWRプラント特有の応力腐食割れ。(材料、環境および応力の3要素が重なって発生する割れ)
  ※4: 機械加工
溶接により発生する表面の凸凹を切除するとともに、管台とセーフエンド部の段差を無くすため、金属製の刃を周方向に回転させ切削加工すること。
  ※5: 超音波探傷試験(UT)
超音波を使って金属等の内部にある傷を検出する試験。
  ※6: 工事計画認可申請書
発電所の建設工事を開始する前に機器の詳細設計内容について、国に提出する申請書。


 原因調査結果、推定原因および対策は次のとおりです。

1.原因調査結果 
(1) 外観目視観察
   水中カメラによる外観目視観察の結果、溶接部表面に周方向の等間隔の筋状の跡が認められ、傷はいずれの深さでも複数の折れ曲がりおよび枝分かれがあることを確認するとともに、デンドライト境界※7に沿ったものと推定しました。これらの特徴は、過去の1次冷却材環境下における応力腐食割れと同様であることを確認しました。
 なお、傷の深さは最大で約20.3mmと評価し、傷の深さ調査後に確実に傷の除去を行うための研削を実施した結果、研削部分の形状は、周方向の幅約102mm、軸方向の幅約74mmの半球状で、当該部分の板厚は約53.6mmとなりました。
(2) 製造・運転履歴調査
   大飯発電所3号機の原子炉容器は、昭和62年5月から平成元年12月にかけて製作されていますが、当該管台の製作手順に特異性は認められず、記録確認および聞き取り結果から、溶接の手直しはなかったと考えられました。また、工場において原子炉容器管台とセーフエンド部を600系ニッケル基合金で溶接した後、溶接で生じた内面の段差を除去するため、金属製の刃を周方向に回転させて切削する機械加工を行うとともに、加工後、溶接部について浸透探傷試験(PT)、放射線透過試験(RT)、超音波探傷試験(UT)を行い、異常のないことを確認していました。
 加えて、運転時の1次冷却材温度・圧力に異常はなく、水質も基準値内に管理されていることを確認しました。
(3) 表面加工状態確認試験(実物大の模型試験)
   機械加工による影響を確認するため、ステンレス配管に600系ニッケル基合金を溶接し、内面を機械加工した実物大の試験体を製作して目視点検したところ、機械加工後の表面に、当該管台と同様、等間隔の機械加工跡を確認するとともに、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生する可能性がある約300MPaを超える引張残留応力を確認しました。
(4) 文献調査
   過去に発生した管台溶接部の損傷は、製作過程における溶接の手直しもしくは機械加工による高い引張残留応力によって、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生したものと推定されていました。
   
2.推定原因
   原子炉容器製造時、600系ニッケル基合金溶接部に機械加工を行ったこと、並びに溶接時の残留応力により、内表面に高い引張残留応力が生じ、1次冷却材環境下における応力腐食割れが発生し、運転時の応力等により、割れが進展したものと推定しました。
   
3.対策
(1) 600系ニッケル基合金溶接部の応力腐食割れに対する予防保全対策として、Aループ出口管台溶接部については、研削部を含めた管台溶接部内表面に対して、水中での施工が可能なウォータージェットピーニング工事を実施します。Aループ出口管台溶接部以外の出入口管台溶接部については、既にウォータージェットピーニング工事を実施しています。
(2) なお、当該溶接部については、耐食性に優れた690系ニッケル基合金を用いた肉盛溶接補修の具体的工法等を検討し、次回定検時に実施することとしています。


 大飯発電所3号機は、当該部のウォータージェットピーニング工事を実施後、当該部の健全性を確認するため1次冷却材系統の耐圧漏えい検査※8等を行い、11月上旬に原子炉を起動する予定です。

  ※7: デンドライト境界
溶接部では、溶融した金属が固まる際にできる柱状の結晶(デンドライト結晶)ができ、その結晶組織の境界のことをデンドライト境界という。
  ※8: 1次冷却材系統の耐圧漏えい検査
1次冷却材系統の圧力を昇圧した後、当該部の目視点検を行い、変形等の異常がないことを確認する検査。

以  上

  (経済産業省によるINESの暫定評価)
 
基準1 基準2 基準3 評価レベル
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  INES:国際原子力事象評価尺度
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