コラム|新たな拠点、和歌山の魅力【隈 研吾】
余話一話
2023.5.31

コラム|新たな拠点、和歌山の魅力【隈 研吾】

コロナ禍で、私もリモートワークを体験したが、家にこもっていると発想が湧いてこない。人は移動し、新しい場所で刺激を受けることでアイデアが生まれる。ならば、面白そうな場所に拠点をつくり、移動して仕事をしてはどうか–––そんな考えから、各地にサテライトオフィスを展開し始めた。北海道、沖縄、岡山に続き、2023年4月には和歌山に、関西初のサテライトオフィスを開いた。

和歌山はとてもエキゾチックな場所だ。黒潮がぶつかる自然の力強さを感じる地であり、高野山や熊野のような神聖な場所もある。関西国際空港からわずか1時間ほどで、これほど自然や土地のパワーを感じられる場所というのは魅力的だ。建築材料の面でも、紀州材はもとより、さまざまな自然の素材が見つかりそうで楽しみだ。有田市の有和中学校のプロジェクトでは、漆喰にみかんの皮を練り込むことで、きれいなオレンジ色の壁ができた。今後も地元の多様な素材を発見・活用していきたい。

古いビルを壊して高層ビルをどんどん建てるような都市開発のあり方は、もう時代に合わない。単に機能的で照明が明るいだけの空間には、人は魅力を感じなくなっている。今回、オフィスを設けた和歌山市内には城のお堀もあり、風情がある。この地で古いビルをうまく改装して、近くを通る人の目に留まり、面白がってくれるようなオフィスをつくりたい。

サテライトオフィスは、人とつながる場所でもある。コワーキングスペースとして地元の人にも利用してもらい、交流を生み出すほか、現地や関西圏でのスタッフ採用もしていきたいと考える。和歌山という独特の風土の中で、新たに生まれる人とのつながりや発想に期待が高まる。

隈 研吾
隈 研吾 くま けんご
建築家
1954年生まれ。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『全仕事』『点・線・面』『負ける建築』『自然な建築』『小さな建築』他多数。
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