2023年5月、新型コロナウィルス感染症が5類に移行し、経済活動など平時に戻りつつある。コロナ禍で急速に進んだテレワークは今後どうなっていくのか。野村総合研究所未来創発センターの森 健氏に考察いただいた。
2022年7月に都道府県別テレワーク対象者率を調査した結果、東京、神奈川では40%以上、中でも東京は51.2%と高い。千葉、埼玉、大阪も30~40%と大都市部で高い反面、島根や鹿児島は10%未満と低く、他の地方部でも数値は低めだ。大都市圏はオフィス勤務などテレワーク可能な職種が多いこと、通勤時間の削減などテレワークによる恩恵が大きいことが理由と考えられる。
テレワークによる生産性低下については改善されていると見ている。コロナが5類に移行した今、テレワークがやりにくい人は出社すればいい。
世界8か国の就業者に対して、コロナ禍以前(2019年)と禍中(2022年7~8月)の生産性の変化についてアンケートを行うと、テレワーク対象者の多くが、生産性が向上したと回答している。ただ、回答者の主観によるものなので、企業の業績等とともに丁寧に見ていく必要がある。
この調査で興味深いのが、欧米諸国では、テレワークをしていない人でも、生産性向上を実感している点。米国では43%、英国では29%の人が「コロナ禍前と比較して生産性が上がっている」と回答。コロナ禍を契機にデジタルツールの導入が進んだことで、職場全体として生産性が上がっていると伺える。
日米欧の就業者にテレワークの意向を尋ねると、すべての国で「緊急時だけでなく平常時でもテレワークをしたい」の回答率が最も高くなっている。しかし、企業の方針は各社バラバラ。米国のIT業界を見ても、完全出社を求めるテスラ、部署ごとにテレワーク方針を決めるアマゾンなど各社各様だ。米国では、テレワーク意向が強い就業者と、そこまで熱心でない企業とのギャップが広がり、離職者数の増大にも繋がっている。
職業特性もあるため大きく導入拡大するとは考えにくいが、人材獲得競争が激しくなるなか、活用せざるを得ない状況もあり、一定程度定着していくのではないだろうか。
テレワーク自体が目的ではないので、完全出社で顔を合わせて働くという会社があっていい。そのうえで言えば、テレワークを推進するには、個人個人のタスクと評価をはっきりさせる必要がある。テレワークでは部下の働き方が見えず、上司が部下の仕事を評価しにくくなるという意見も聞くが、何をもって成果とするのかを部下と共有しマネジメントすることで解決できる。
テレワーク導入を就業者の満足度向上につなげるには、出社日を自分で決めさせることが必要。米国・アップル社では、会社が出社日を決めていたが、「自分で決めさせろ」と大ブーイング。チームで話し合い、子育て等個人の事情や、業務内容を鑑みながら各人が自律的に選ぶのが望ましい。
テレワークは柔軟な働き方が可能になる等多くのメリットがあるが、コミュニケーションの質や量はやはりリアルにはかなわない。課題を解決するには、オフィスをリアルコミュニケーションの場とし、対面のコミュニケーションを活性化する仕組みづくりを進めることも必要だ。