東京電力福島第一原子力発電所事故を教訓として、国は自然災害やシビアアクシデント、テロ等から発電所を守るため、新規制基準を制定。関西電力は、自主的な取組みも加え安全性向上対策工事を推進。高浜発電所を訪ね、安全性向上対策工事の陣頭指揮を執った高浜発電所副所長(土木建築)の片山誠弥に話を聞いた。
原子炉格納容器上部遮蔽、いわゆるトップドーム設置工事です。原子炉格納容器の上部をドーム型の鉄筋コンクリートで覆う工事ですが、単に、ドームを設置すればいいというものではなく、ドーム設置による重量増に対応するため、円筒部分の補強工事も必要。高さ約90mの高所作業に加え、個々の工事で高い品質が求められ、苦労した工事の1つです。
円筒部の補強では、既設の壁との一体性を確保するためアンカーを打ち込むのですが、1基当たり約50,000本にも及ぶアンカーを全数確認し、埋め込みの長さ等に問題がないか検査を行い、品質を担保しながら工事を進めました。
土木・建築工事は現場でものを構築していくため、通常は若干の施工誤差が出てしまいます。
しかし、遮蔽性能上の要求事項や構造上の安全性を担保するため、非常にシビアな施工精度を求められた工事でした。
実は私は、トップドームの「設計」にも関わっているんです。以前、原子力事業本部土木建築グループに在籍していた際、設計や許認可を担当。もちろん詳細設計は外部の専門家にお願いしますが、専任マネジャーとして、コンセプト設計等に携わりました。自身が設計した構造物の工事に携わり、竣工に立ち会えたことを誇りに思っています。
全社の土木建築部門から専門知識を持つ技術者が集まり、工事に対応しました。私の役割は、技術者集団をまとめ、工事監理の指揮をとり、高浜発電所の土木建築関連業務全体を統括することです。
土木建築工事は、日々変化する現場の状況と課題を踏まえながら、安全対策、品質管理、工程管理を行う必要があり、頭を悩ませることも多いです。反面、構造物が完成に向かっていく姿を目で見て、肌で感じることができるのは、現場で働く者の特権であり、醍醐味です。
社員、協力会社の全員が、毎日元気に家族の元、友人の元、帰るべき場所に帰っていく、これを守り続けることが私の使命です。
私の統括する職場のスローガンは「今日の『あたりまえ』を守り、未来の『あたりまえ』を創るため、原子力安全を支える発電所内ルールを遵守し、設備の保全・工事の完遂に向けて安全最優先で『考動』します」。これは若手社員が中心になり考えてくれたものです。
ルールを守り、安全最優先で考動する。1つ1つのあたりまえを日々積み重ね、発電所の安全・安定運転を継続することが、地域や社会の原子力への信頼醸成に繋がると考えています。
安全性向上対策工事では各々の技術者が「どんな困難な状況でもやり遂げる」という強い意志を持って工事に携わり、私の技術者魂もくすぐられました。工事を通じて培った技術力と情熱を確実に継承し、強い責任感を持つ土木建築のプロフェッショナル育成が私の責務です。
工事は無事終わりましたが、原子力安全への取組みに終わりはなく、今後も情熱を持って真摯に、維持管理を行い、原子力への信頼獲得の一助となるよう努めてまいります。