ウクライナ危機の影響で食品の値上げが続いており、食料安全保障への関心が高まっている。食の専門家である三石誠司先生(宮城大学教授)に話を聞いた。
日本の食料自給率はカロリーベースで38%。1965年の73%からジリジリと下がり、ここ10年下げ止まりの状況は変わらない。
過去半世紀以上、日本では食の欧米化が進んだ。具体的には、コメの生産・消費が減少し、食肉消費が増えたということだ。需要の増加に対応するため、海外から安い飼料を大量に買い、畜産業を伸ばしてきた。肉類の1人当たり年間消費量は1965年の9.2㎏から2021年度には34㎏と約4倍に、油脂類の消費量も倍増している。国内自給が可能なコメの生産と消費が減少したこと、飼料の多くを輸入に頼る畜産物や油脂類の消費が増えたことが自給率低下につながっている。
農林水産省の資料をもとに作成
国土の広いカナダ、オーストラリア、アメリカは、小麦や大豆、とうもろこしなどを大規模に生産しており、カロリーベースの食料自給率が100%を超える輸出国だ。ヨーロッパ諸国も比較的高い。国土に占める農地面積が広く、特にフランスは35%が農地という農業大国だ。
一方、生産額ベースの自給率は日本が63%で他国と見劣りしない。これは付加価値が高く高品質な農産物を生み出しているという日本の強みが反映されている。
農林水産省の2022年8月食料安全保障月報より作成
中国でも生活水準の向上に伴い、日本と同様に食の欧米化が進んでいる。大豆は、日本では味噌や豆腐などさまざまな食品に加工されるが、中国含め世界的には主に油の原料と家畜の飼料として使用する。人口14億人の中国では食肉消費量は日本の10倍以上、油脂消費量は30倍近くになっており、それを支える大豆の輸入量が増えている。
中国ではコメの国内価格も上昇している。インスタント食品や酒造原料として安いコメのニーズが高まり輸入量増加にもつながっている。
中国は主食用穀物の完全自給を掲げているが、主食以外の穀物や油糧種子は不足分を輸入する方針だ。中国の輸入量増加に伴い、国際市場における買い手としての日本の存在感は低下している。
日本の食料調達網は世界中に広がっているが、広がりすぎたサプライチェーンはリスクに直面する可能性が高まる。現に、ウクライナ危機を背景に、自国の供給確保を優先するため、輸出規制に踏み切った国もあり、輸入国に大きな混乱をもたらした。
食料安全保障のためには、国内での農畜産物増産を含め、不測時の代替手段を平時から考えておくことだ。その一環として、長期的な視野で食料生産に携わる次世代を育てる仕組みが必要だ。