コラム|食料自給率38%のリスク【三石誠司】
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2022.12.21

コラム|食料自給率38%のリスク【三石誠司】

ウクライナ危機の影響で食品の値上げが続いている。食料の国際価格は軒並み高騰しており、食料争奪戦が激化するなか、食の安全保障への関心が高まっている。

穀物別生産・輸出入量の動向

穀物別生産・輸出入量の動向

農林水産省の2022年8月食料安全保障月報より作成

過去半世紀、日本人1人当たりが必要とするカロリーは概ね変わらないが、中身は大きく変化した。例えばコメは1,090kcalから475kcalに。代わりに増えたのは、畜産物(肉)と油脂。いわゆる食の欧米化だ。14億人市場の中国でも今、日本と同様に食の欧米化が進み、日本と比較すると既に食肉消費量は10倍以上、油糧種子の搾油量は30倍近くとなっている。大豆の輸入量トップが中国というのも、その結果だ。日本では味噌や豆腐などさまざまな食品に加工される大豆だが、中国を含め世界的には主に油の原料と家畜の飼料として使用する。中国ではコメの輸入量も増加。これは中国産米の価格上昇に伴い、ビーフンなど加工品を中心に安価な外国産米の使用が増えているためだ。アジアの小麦輸入量トップはインドネシア。同国はコメが主食のイメージだが、食生活の変化を反映し、麺やパンに加工できる小麦の輸入が伸びている。とうもろこしの生産・輸出量トップはアメリカだが、飼料やバイオ燃料として8割を自国で消費しており、輸出に回るのは生産量の2割に過ぎない。輸出はあくまで国内の余剰分という位置づけだ。今後国内消費が増えれば、輸出量は減る可能性がある。

日本と諸外国の食料自給率

日本と諸外国の食料自給率

農林水産省の資料をもとに作成

日本の食料自給率はカロリーベースで38%、世界1位の農産物純輸入国だ。世界中から食料を調達しているが、生産国の状況により影響を受けやすい。加えて、中国や新興国の輸入量増加に伴い、買い手としての日本の存在感は低下している。

広がり過ぎたサプライチェーンはリスクが大きい。食料安全保障のためには、国内での農産物増産を含め調達網を見直し、不測時の代替手段を考えておくこと。さらに、長期的な視野で食料生産に携わる次世代を育てていく取組みなども必要だろう。

三石誠司
三石誠司 みついし せいじ
宮城大学 食産業学群 フードマネジメント学類 教授
1960年生まれ。神戸大学大学院修了。博士(経営学)。全国農業協同組合連合会等を経て、2006年より現職。農林水産省食料・農業・農村政策審議会委員などを歴任。
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