ギリシャ語で気体を意味する「アトミス」を社名に冠した京大発ベンチャーAtomis。気体を自由に操る世界を創ろうと、多孔性配位高分子の事業化に取り組むAtomis代表取締役CEOの浅利大介氏に話を聞いた。
文字どおりたくさんの孔(あな)が空いた素材で、様々な気体を吸着、貯蔵できる。組立ブロックのように、金属イオンと有機配位子*を交互に組み合わせて、種類や用途に応じて孔のサイズを自由に設計できる。
*金属イオンと配位結合を形成する有機化合物
多孔性配位高分子
ナノレベルの孔に気体を取り込む(提供:Atomis)
多孔性配位高分子の持つ吸着機能に着目し、次世代スマート高圧ガス容器「CubiTan🄬(キュビタン)」を開発。軽くてコンパクトなキューブ(重さ12kg・34cm×27cm角)に大容量のガスを貯蔵できるだけでなく、残量や漏洩を遠隔で監視するセンサーや通信機能を搭載した。
現在流通する高圧ガスボンベは重さ約60kgの円筒型で、規格は約100年間変わっていない。理由は、ガスボンベの価格が非常に安いことにある。しかし、重くてかさばるボンベの運搬は重労働で、残量の目視確認には多くの人手を要する。今後、ITで管理し効率の良い運搬が求められると考え、開発に着手した。
高圧ガスボンベの市場は確立されており、簡単に置き換えることはできない。当社が今、目指しているのは、今後の市場拡大が期待される水素やメタンガスの運搬にキュビタンを使うこと。まずは、メタンガス流通への利用を目指す。地方の畜産業者が、牛の糞からメタンガスをつくっているが、都市部に運ぶ方法がない。現状は地産地消に留まるが、需要がある地域に販売できれば、生産規模を拡大できる。
将来的には、水素への活用も考えている。水素を詰めたキュビタンを自宅に届けてもらえば、水素ステーションまで行かずとも水素自動車に燃料を補給できる。コンパクトなので、災害時にドローンで運ぶことも可能。再生可能エネルギーの適地は過疎地に多く、再エネで水素をつくり、都市部で販売できれば、過疎地の新たなビジネス創出につながる。
現在の法律では、ガスを貯蔵する容器内に多孔性配位高分子のようなガス吸着剤を入れることが認められていない。安全性を確保する様々な技術評価を行い、キュビタンの認可に向けた準備を進めている。
神戸ポートアイランドに工場を建設し、23年3月に京都から移転する。新設した工場は、キュビタンに搭載する多孔性配位高分子量産化に向けた開発拠点だ。早期に道筋をつけ、社会実装を実現したい。
大学の基礎研究を形にし、商用化への道筋をつけることが、大学発ベンチャーの大きな使命。素材ベンチャーは、設備投資にお金がかかり成功しないと言われるが、事業化を実現し、新素材でエネルギー流通を変えていきたい。Atomisを逆から読むと「しもた」。他企業が「しもた!」と悔しがる、そんなインパクトを与えたい。