水素の本格利用に向け、サプライチェーン構築に取り組む川崎重工業。水素戦略本部の森中絵美さんに取組みの現在地や今後の展望を聞いた。
液化水素荷役ターミナル「Hy touch神戸」に接岸する液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」
脱炭素化のカギとなる次世代エネルギーの一つとして注目される水素。水素は、使用時にCO2が発生せず、燃料電池自動車などのモビリティや発電など幅広い分野での活用が期待されています。政府は、水素年間導入量を現在の200万トンから2050年には2,000万トン程度まで拡大を目指しており、大規模供給を支えるサプライチェーン構築が急がれています。川崎重工では、2010年頃から次世代エネルギーとして水素に着目し、「日豪水素サプライチェーンパイロット実証」をはじめとした、国際水素サプライチェーン構築に向けたさまざまな実証を実施。同時に、水素ガスタービンの開発やそれを用いた市街地での発電実証、さらに水素エンジン・関連機器の開発検討も進め、供給・需要の両面で水素社会実現に向けた取組みを進めています。
オーストラリアの安価な未利用資源である褐炭から水素を製造し、液化水素運搬船で日本まで海上輸送、神戸にある液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch神戸」に荷役するプロジェクトです。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成を受け、川崎重工など7社が参画。川崎重工は、液化水素運搬船と液化水素荷役・貯蔵設備の開発・建造を担当しました。輸送を担ったのは、液化水素専用の運搬船として世界に先駆けて開発・建造した「すいそ ふろんてぃあ」。9000㎞離れたオーストラリアと日本をマイナス253℃を保ちながら水素を運ぶという世界初の取組みを成功させました。
マイナス253℃で液化し、体積を800分の1にした液化水素を1250m3積載できます。川崎重工は1981年にアジア初のLNG運搬船を建造し、海上輸送での極低温技術をリードしてきました。LNG船で培った造船技術と極低温技術を結集・発展させ建造したのが「すいそ ふろんてぃあ」です。LNG船と基本的な技術は似ていますが、LNGよりもさらに90℃近い低温を維持するため、タンクを魔法瓶のような二重構造にし、内側容器と外側容器の間を真空にして熱を遮断する「真空断熱二重殻構造」を採用しています。
大規模な水素輸送を実現するには、運搬船を含めた機器の大型化によって輸送コストを低減させ、経済性を確立することが必要です。
現在、「すいそ ふろんてぃあ」の128倍にあたる、16万m3の液化水素を運ぶ大型運搬船の技術開発に着手。2020年代半ばの商用化実証を目指しています。
水素は、脱炭素化とエネルギー安全保障を実現するキードライバーだと考えています。川崎重工は、水素輸送・貯蔵技術に加え、水電解装置や液化システム、水素ガスタービンなど水素関連技術開発も行っており、水素を「つくる」「はこぶ」「ためる」「つかう」というサプライチェーン全体の技術を1社で保有しています。総合力を結集し、石油や天然ガスなど現在の化石燃料のように水素がエネルギーとして当たり前に使える社会の実現が川崎重工のミッションです。