組織の持続的な成長には人財力強化が不可欠。関西電力の幹部育成研修を担当する鎌田英治氏(グロービス経営大学院専任教授)に狙いや方策を聞いた。
幹部育成研修は次世代の経営層育成という、将来に備えるためだけの研修ではない。今の仕事を経営者目線で捉え、自分の頭で考え、決断できるリーダーの育成が目的だ。キーワードは「中間経営職」。私が研修を行っている部長職の人は自分を中間管理職と定義していることが多い。中間管理職という認識だと、上の指示を下に伝え、部下を管理するという発想になってしまう。それはそれで必要だが、変化が激しく先行き不透明なVUCA時代には、現場が直面している状況を自ら見極め、部門の舵取りをしつつ、現場の状況を経営者に進言する「中間経営職」が求められる。中間管理職として部下を管理する姿勢で捉えるのか、経営者として外部環境の変化を踏まえ自ら決断を下すという姿勢で捉えるのかでは、部門のパフォーマンスが大きく変わってくる。
中間管理職ではなく中間経営職として動くには、部下への権限委譲が不可欠。不測の事態に備えるには、メンバー一人ひとりが自分の頭で考え判断できないと強い組織にはなれない。そのためには、部下を管理するという意識を手放し、任せることが必要。
そうならないため、自社の存在意義やどのように社会に貢献していくかを明確にして、目指すべき方向を共有する必要がある。企業の価値観が社員個々の職業人としての価値観と一致していることが重要。
研修では、企業価値を共有すると同時に、「なぜこの会社で仕事をしているのか」「この会社で成し遂げたいことは何か」「成し遂げるためには現業で何を行っていくのか」といった問いを投げかけ、自分の軸を再確認する機会を設けている。
人は自分が決めた以上にはやらない。他人に何を言われても、実際にやるのは自分で決めたことだけ。だから、自身の目標とする職業人像と、それに近づくために今何をするのか、行動して何が変わったのかを他の受講者に発表する機会を設けることで行動を促している。
また、ボキャブラリーのアップデートも重要。周りを巻き込むポジティブな言葉を増やし、無自覚に使っている否定的な言葉を自己認識し変えていく。例えば、「難しい」という言葉が多いリーダーと「よしやってみよう」というリーダーでは、周りを動かす力が大きく変わってくる。部下の提案に発する第一声を変えることが、行動変化につながる。
ゼロカーボンに向け社会が大きく動き始めたが、仕組みもルールもまだまだ未整備。しかしリーダーは、情報が揃わずとも、自分の頭で考え判断を下さなければならない。そのために必要なのは知性のアップデート。
ロバート・キーガン著の『なぜ人と組織は変われないのか』では知性の発達段階を3つに分けている。1段階目は「環境順応型知性」。これは、自己を確立できていない段階で、わかりやすく言えば「指示待ち」。2段階目が、「自己主導型知性」。周囲の期待を踏まえながら、自分なりの判断基準を持って課題解決ができる。3段階目が「自己変容型知性」。自分の判断基準は完璧ではないと、常識や既存の仕組みを疑い、複数の視点を受け入れ、変わり続ける知性を持った状態を指す。
これまでは、「自己主導型知性」でリーダーシップをとれたが、変化の激しい時代に求められるのは、「自己変容型知性」を持つリーダーだ。自身の判断軸さえも否定する柔軟性を持ちながら、そのうえで1ミリでもいいから前進していこうという気概に溢れた、関西電力を牽引するリーダーを一人でも多く輩出したい。